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【助産師リポート・後編】目の前の命に向き合うということ

up 2024.02.27

皆さんこんにちは。ジャパンハートの研修制度「グローバル人材開発コース」の受講生としてカンボジアで活動している助産師の柳です。
もう少しでこちらに来て半年が経ます。
研修期間の折り返し地点を迎えるにあたり、これまでの活動のなかで特に印象深く活動への思いが強くなった経験について【前編】【後編】の2回に分けてご紹介します。

【助産師リポート・前編】目の前の命に向き合うということ

赤ちゃんとの再開

2023年末に1700グラムで生まれ、私たちのもとに運ばれてきた男の赤ちゃん。
厳しい事情を抱えるお母さんの意向を汲み、入院させずに自宅に帰すという判断をしたものの、私はその後もずっとその赤ちゃんことが頭から離れませんでした。

お母さんからもヘルスセンターからも特に連絡はなくもどかしい思いでしたが、しばらくして出張妊婦健診で親子の家の近くのヘルスセンターを訪問する機会がめぐって来ました。
到着して真っ先にヘルスセンターの助産師さんに親子の様子を尋ねると、「赤ちゃんは生きているよ」と教えてくれました。とても嬉しかったです。

突然の急変 今度こそ入院が必要

しかし、安心したのもつかの間。数日後にお母さんが「おへそから出血している」と赤ちゃんをジャパンハートの病院に連れて来ました。
おへそは問題なかったのですが、体重が1300gまで減っていました。心拍も弱く、ジャパンハートの病院でも対応が難しいため、高度医療施設への搬送が必要な状態でした。

私たちはもう一度、お母さんに入院できるかどうか尋ねました。
前回は生活や仕事の事情で頑なに入院を拒否していたお母さんでしたが、その後、お母さんなりに仕事の関係先や行政に掛け合い、色々と動いていたようです。

カンボジアでは収入や生活状況の審査の上、経済的に困窮していると認められた場合に、「Poor Card」というカードが交付されて治療費や救急車代が無料になる仕組みがあります。
前回はこのカードすら持っていませんでしたが、お母さんは家に戻ってから村長に頼んで証明書の代わりとなる書類を手に入れていました。
病院に来る前に仕事の調整もつけてきたそうで、「入院します」と答えてくれました。

お母さんは女手一つで2人の幼い子どもの育児をしながら仕事をし、生活も大変な中、赤ちゃんのために周りの環境を整えていたのです。
お母さんの赤ちゃんへの愛情と思いに感動し、行動を尊敬し、また、過酷な環境でここまで生き抜いた赤ちゃんに、なんとしても生きてほしいと思いました。
その後、赤ちゃんはすぐにプノンペンの病院に搬送されていきました。

「信じ、伝えること」の大切さ

この赤ちゃんとお母さんとの出会いは、私にとってもジャパンハートの周産期事業部にとっても大きな経験となりました。
最初に運ばれてきた時にやむを得ず帰宅させることになりましたが、それでも赤ちゃんの生命力とお母さんの出来ることを信じ、その状況で何が出来るかをみんなで模索しました。
その結果、お母さんが私たちの思いに応えてくれ、そして赤ちゃんが生き延びてくれたことが何よりも嬉しかったです。

また、ヘルスセンターの助産師さんがお母さんと赤ちゃんのことを私たちと同じ思いで気にかけてくれたことにも感動しました。
正直、カンボジアで日本のような地域連携は難しいだろうとあまり期待をしていませんでした。
しかし、今回、地域と連携して退院後の患者さんの経過を追うことができたことは、私たちにとっても大きな自信になりました。
そして今回、スムーズに連携が取れたのはこれまでジャパンハートのスタッフやカンボジア人の助産師たちが地道に築きあげてきた信頼があってのことだと強く感謝しています。

限られた環境で、相手のために自分たちに何ができるのか考えて実践すること、そして今やっている活動が今後どう繋がっていくのかを実際に感じられたとても大切な事例です。

予期せぬ別れ

1月末の夜、再びお母さんが赤ちゃんを連れてジャパンハートの病院に駆け込んで来ました。
「お風呂に入った後、顔色が悪い」と訴えていたそうで、夜勤の助産師と医師が対応しました。
報告によると親子はプノンペンの病院を退院した後、お母さんの母親の家で一緒に住むことになったそうです。
ジャパンハートの病院に着いた時には状態も落ち着いていたため、小児科医の診察を受けて「症状が悪化する場合はプノンペンの病院へ行くように」と伝えて自宅へ帰したそうです。

しかしその数日後、再び親子の家の近くのヘルスセンターを訪問した際、唐突に「数日前、赤ちゃんが亡くなった」と報告を受けました。絶句しました。

「なぜあの夜、来院した時に入院させなかったのだろう」「なぜ2000gを超えていない赤ちゃんをプノンペンの病院は退院させたのか」と他人を攻める気持ちがわいてしまいました。
しかし、考えてみると、夜間に帰宅した翌日にヘルスセンターに連絡を入れたり、そもそも搬送後にその後の経過を追っていなかったり、自分がするべきだったこと、できたこともありました。

そして、高度医療施設に搬送されたことに安心し、慢心していた自分に気づきました。
赤ちゃんは低体重で産まれ、貧困で医療を受けづらい環境から、一生懸命に1か月以上生きてきたのに、どうしてこのような結末になってしまったのか。自分にもできたことがあったと思うと悔しくてたまりません。

命に向き合うということ

カンボジアでは今もなお医療者のスキルやマンパワーが不足し、保険制度など医療を支える仕組みも不十分です。
そのような環境で、少しでも気を抜くと簡単に命が消えてしまうことを今回初めて痛感しました。

そして、日本では色々な人や環境に守られながら医療をしてきたことにも気づかされました。
この経験を通して、今後の活動で自分ができることはなんでもしようと強く思いました。
当事者意識をもち、自分がやらなければ誰もやらないかもしれないことを意識して活動していこうと思います。

私が直接患者さんと関わる場だけでなく、その後も考えることを忘れずに活動していこうと思います。
活動期間は残り半年になりますが、まだまだできること、やりたいことは沢山あります。
1日1日を大切に、そして1つ1つの出会い、経験を大切にこれからの活動に取り組んでいきたいと思います。

柳 花苗 グローバル人材開発コース 助産師受講生 6期生

新潟県出身。6年間の助産師経験を経てジャパンハートの研修に参加。助産師の仕事が好きなこと、スキルアップもしていきたいという思いがあり、海外で助産師を続けながらスキルアップができる当研修に参加を決めました。


▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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