サバイディー!(ラオス語で「こんにちは!」)ラオスオフィスの松原です。
ラオスの首都ビエンチャンで推進中の小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト(以下、小児がんプロジェクト)。
今年7月にプロジェクト初回となる手術活動を予定しています。
今回は手術活動を前に実施した生体検査の技術指導についてご報告します。
ついに出会った最初の患者さん
小児がんプロジェクトでは、経済的な理由により医療機関の受診障壁が高いというラオスの背景もあり、サポートの対象となる患者さんになかなか出会うことができずにいました。
しかし2025年2月、現地パートナーである国立子ども病院(以下、子ども病院)に、プロジェクトの対象疾患のひとつである腎芽腫(腎臓に発生する小児固形がん)が疑われる患者さんがいるとの一報が。
入院していたのは当時生後2ヶ月のソンサイくんという男の子。
お腹が大きく張っていることにお母さんが気付き、地元の病院を受診しましたが、そこでは治療ができず子ども病院を紹介されてやって来ました。
入院当初は腎臓にできた腫瘍でお腹がぱんぱんに膨らんでおり、小さな体で頑張っている姿に、私たちも何とかサポートしたいという気持ちでいっぱいになりました。
病院へ来た頃のソンサイくんとお母さん
子ども病院初!術前生体検査の実施に向けて
子ども病院の先生と日本の先生が病気の診断や治療方針について相談しましたが、日本の先生からは「安全で効果的な治療を行うためには生体検査(患部の一部を採取して組織を調べる検査)を行い、診断を確定させる必要がある」とのご意見が。
腎臓にできる腫瘍は血液検査やエコーなどの画像診断だけでは病気の特定が難しい場合があり、そのような場合は、生体検査が診断において重要な手段となります。
しかし、生体検査に使用する組織は患者さんに麻酔をかけてメスや針で採取するため、小規模な手術のような扱いになることに加え、検査自体にもお金や時間がかかるため、ラオスでは患者さんの経済的な負担を考慮して、手術前の診断を目的とした生体検査は基本的に行われていません。
子ども病院の先生もこれまでに経験はないということでした。
そこで今回はプロジェクトのパートナーである九州大学病院から小児外科医の川久保先生にラオスへお越しいただき、今後の治療と手術を安全に進めるための生体検査を目的として、組織採取の技術指導を行っていただきました。
子ども病院で初めて行われる生体検査のための組織採取。
関わる全てのラオス人医療者にとって初めての経験であったため、安全に実施できるよう慎重に進められました。
初日は川久保先生からラオス人医師に対し、エコーを使った診察の指導を行ったほか、組織採取の手術に参加する医療者に向けて目的や手順の講義を実施いただきました。
小児がんプロジェクトだけでなく、今後の子ども病院で行う治療に広く活用できる可能性があるということで、受講したメンバーは真剣そのものです。
エコー指導を行う川久保先生
患者さんの様子を見る腫瘍内科部長のソンペット先生
(上)受講中の真剣な様子 (下)講義終了後は笑顔で集合写真
現地医療者の熱意も高まり、一丸となって手術活動へ
翌日はいよいよ組織採取を行います。川久保先生は子ども病院の外科部長であるボンペット先生と共に手術室に入り、ソンサイくんの安全を考慮しながら丁寧に指導を行っていただきました。
今回実施したのは専用の針で患部組織を採取する針生検です。
手術室では川久保先生がエコーを当てながら、針を刺す部位をボンペット先生と確認したほか、使用する針の動作確認や使い方についても時間をかけて説明していただきました。
麻酔科医、看護師、インターンの医学生など、手術室にいた全ての医療スタッフが真剣にその様子を見学したり、動画を撮ったりと、学ぶ姿勢がとても印象的でした。
エコーで組織採取のルートを検討
川久保先生の指導の下、ボンペット先生も組織採取を行いました
組織採取は無事に終了し、ソンサイくんも翌日いったんお家に帰ることができました。
採取した細胞の検査結果をもとに先生たちで検討した結果、ソンサイくんの病気は腎芽腫という診断に。
次回、日本の先生にラオスへお越しいただく7月に、腫瘍を切除する手術を行うことになりました。
それまではできるだけ腫瘍を小さくすると同時に、どこかに潜んでいる可能性のあるがん細胞を治療し再発や転移を防ぐために、診断前から実施していた化学療法を継続します。
既に化学療法の効果があり、お腹の腫瘍は小さくなってきました。
一方でソンサイくんは治療を頑張りながらぐんぐん成長しており、私たちも手術に向けて一緒に頑張ろうと勇気をもらえます。
生体検査実施時のソンサイくん。日々大きくなっています。
ラオスの未来に向けた確実な一歩
今回の川久保先生による指導により、今後また生体検査が必要な患者さんがいた場合に、日本からの遠隔指導のみで組織採取を行える可能性が高くなりました。
これは病気の診断をより早く正確に行い、速やかに適切な治療を開始することに繋がります。
また、子ども病院の医師からは「今すぐには患者さんの経済的な理由で難しくとも、将来的に普段子ども病院で行っている治療においても術前の生体検査を行い、より適切で安全な治療と手術を行うことができるようになるだろう。ラオスの医療の未来にとって重要な活動だ。」との発言がありました。
ラオス人医療者自身が、自国の医療の発展を想い活動に参加してくれていることに、改めてパートナーとしての心強さを感じました。
最後に、小児がんプロジェクトの推進にご尽力いただいている九州大学の皆さまをはじめとする日本の先生方、そして日ごろからご支援をいただいている皆さまに厚く御礼を申し上げます。
今後もラオス事業への応援を宜しくお願いします!
ラオスオフィス 松原 遼子
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動