活動レポート

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【カンボジア医療活動】現地と共に歩む医療現場のいま―手術看護師のまなざしから

up 2025.06.16

2025年5月、ジャパンハートこども医療センターでは2回にわたる集中的な手術活動が行われました。
5月5日〜9日にはジャパンハート認定医・桑原医師による手術が実施され、合計44件を実施。
続いて、5月28日〜31日には最高顧問・吉岡医師による手術が行われ、限られた日数の中で計26件が実施されました。


こうした集中的な手術活動、いわゆる「ミッション」は、成人病棟、小児病棟、外来、そして手術室など、あらゆる現場での力が試される場でもあります。
医療スタッフはどの場面でも常に緊張感を持って臨んでいますが、中でもとくに高い集中力と連携が求められるのが手術室です。
そんな手術室での緊張感あふれる日々の中、最前線で奮闘するのが唯一の日本人手術看護師・西中看護師です。

日本での手術室看護の経験を活かしながら、現在はカンボジアの病院で器械出しや外回り業務を担っている西中看護師。
現地スタッフと協力しながら、日々の手術に取り組んでいます。
今回は現地での活動や感じている課題、今後への思いについてお話を伺いました。

カンボジアの手術現場に入って、どのような印象を受けましたか?

日本から派遣された医師たちは高い専門性と判断力を発揮して、確実に手術を遂行しています。その姿勢は現地スタッフからの信頼につながっていると感じます。
言語の壁はありますが、医師や看護師同士で積極的に質問や確認をしながら、言葉を超えた意思疎通が日々行われています。
手術後に笑顔で達成感を共有することも多く、「チーム医療は国境を越える」と実感する瞬間もあります。

現場で感じた課題や、日本との違いについて教えてください。

この病院では限られた人員体制の中で質の高い医療を提供しようと、看護師も手術記録を並行して行っています。
そのため、術中の患者さんへのケアに十分な時間を割けない場面が生じることもあります。
看護師が記録作業に追われる姿を見て、「患者さんが一時的に孤立しているように感じる」ことがあるのも事実です。
今後、手術件数が増加する中で、こうした体制が患者さんの状態に影響を及ぼす可能性についても注意を払っていく必要があります。

手術室看護師としては器械出し業務だけでなく、外回りとして術中の呼吸や循環動態、体温の観察を行い、緊急時にすぐ対応できるよう備えることも重要な役割です。
特に体位固定では神経損傷や皮膚トラブルを防ぐため、「創部以外に一つも傷を作らない」という意識を持ち、丁寧なケアを心がけています。

現地の看護師とどのように連携していますか?

日本のように滅菌物や機材の管理ができないこともありますが、現地の看護師たちは工夫して柔軟に対応しています。
たとえば、シリンジのサイズが異なっても工夫して使いこなすなど、その適応力から学ぶことも多く、「むしろ私たちの方が教わっている」と感じることもあります。

また、外回り看護の重要性が現地にはまだ十分に浸透しておらず、患者さんが十分に見守られていないと感じることもあります。
そこでまずは自身の看護の姿勢を現場で示し、必要に応じて勉強会を開くなど、一緒に学ぶ姿勢を大切にしてきました。
最近では術前訪問や脊椎麻酔中に患者さんの手を握るなどの看護も見られるようになり、少しずつ変化を実感しています。

異文化の中で働くうえで大切にしていること、そして今後に向けた思いを教えてください。

「日本のやり方がすべて正しい」という意識ではなく、現地の文化や状況を尊重しながら必要な改善点は丁寧に提案することを心がけています。
「カンボジアだから仕方ない」と諦めるのではなく、信頼関係を築きながら、共により良い環境をつくっていきたいと考えています。

また、言葉や文化が違っても、同じ目標に向かって手術を成功させる経験は、自分にとってかけがえのないものです。
この1年間で得た知識と経験を最大限に還元し、患者さんが安心して手術を受けられる環境を整えていきたいと思っています。

文化を越えてつながる現場のまなざし

限られた医療資源の中でも現地スタッフは工夫を重ねながら対応し、必要な知識や技術を互いに学び合う取り組みが続いています。
そこには「日本のやり方を押し付ける」のではなく、「現地の文化や現実を尊重し、より良い方法を共に模索する」姿勢が根づいています。

日本の医療者が伝えるのは技術にとどまりません。
患者さんへの丁寧な対応や状況に応じたきめ細やかなケア、そして命と向き合う姿勢など、言葉を介さずとも伝わる要素があります。
こうした積み重ねが少しずつ日常の医療にも広がりを見せています。

現場にはさまざまな課題もありますが、現地の人々と共に行動し、寄り添うことによって信頼が築かれていく場面も多く見られます。
数日間という限られた期間で行われるミッションでも、そこで生まれる学びや変化は確かに現地の医療の中に息づき、未来への一歩となっていきます。

長期学生インターン 伊藤大輝

▼カンボジアでのプロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/tag/cambodia/

▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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