活動レポート

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【助産師リポート・前編】目の前の命に向き合うということ

up 2024.02.14

皆さんはじめまして。ジャパンハートの研修制度「グローバル人材開発コース」の受講生としてカンボジアで活動している助産師の柳です。
もう少しでこちらに来て半年が経ます。研修期間の折り返し地点を迎えるにあたり、これまでの活動のなかで特に印象深く活動への思いが強くなった経験について【前編】【後編】の2回に分けてご紹介します。

カンボジアでの日々

カンボジアにあるジャパンハートの病院、「ジャパンハートこども医療センター」の周産期事業部では現在、日本人産婦人科医2名(常駐1名、2か月クールで滞在1名)と助産師6名(カンボジア人:4名、日本人:2名)で活動をしています。

周産期事業部は隣接する国立ポンネルー病院と協力しながら活動を行っていて、院内での妊婦健診(エコー含む)、分娩のサポート、産褥入院のほか、病院が立地する地区内にある地域の診療所(ヘルスセンター)での出張妊婦健診など、活動内容は多岐にわたります。

年末にやって来た1700グラムの男の子

まだカンボジアで活動を始めて半年ですが、毎日多くの症例を経験しています。そのなかでも特に強く印象に残っている患者さんがいます。

その患者さんと出会ったのは2023年12月末。地域のヘルスセンターで生まれた1700gの男の子でした。
低出生体重児であったため直ぐにヘルスセンターから国立ポンネルー病院へ搬送され、ジャパンハートが応援で呼ばれました。

私たちが駆けつけた時、お母さんと2歳のお姉ちゃんが付き添っていました。
事前情報はなく、妊娠週数も「おそらく妊娠36週前後」という曖昧なものでした。カンボジアではこうした事例が珍しくありません。
最終月経が分からないという人、貧困でエコー検査を受けられない人も多く、妊娠週数を決定することが難しいことがよくあります。

来院時、奇跡的に赤ちゃんの全身状態は落ち着いていましたが、いつ状態が悪くなってもおかしくなく、慎重な管理を行うために入院が必要なのは明らかでした。
しかし、それをお母さんに伝えると「入院はできない」と強く拒否されました。表情は硬く、何か事情があるように思われました。
カンボジアでは望まれない赤ちゃんが森などに捨てられてしまうことがあるという話を聞いていたので、不安がよぎりました。

カンボジア人の助産師とともにお母さんに事情を聞いたところ、「望んでいた訳ではないが、妊娠期を通して赤ちゃんが産まれてくることを楽しみにしていた」と話してくれました。
それを聞いて少し安心したのと同時に、きちんと事情を確認してこの子が生きられる道を探さねばと思いました。

極度の困窮 親子が抱える事情

より詳しく聞いていくと、赤ちゃんの父親は薬物使用で逮捕されていて、お母さんは長女を抱えながら極度の困窮状態で生活していることが分かりました。
実の兄と同居しているそうですが、不在がちで頼れる存在ではなく、赤ちゃんの祖父母にあたる両親は遠くに住んでいるということでした。

お母さんは畑仕事と他の人の牛の世話をしながら、何とか生計を立てているそうです。
赤ちゃんと一緒に入院してしまうと仕事を休まなければならず、その間に牛が逃げたり盗みにあったりしたら生きていけないと怯えていました。
携帯電話も持っていないのでその場で誰かに相談することもできず、そもそも助けを求められる人も周りにいないようで、「赤ちゃんの面倒は自宅でみるので、家に帰してほしい」と強く懇願されました。

赤ちゃんの命を救うために

私たちとしては「はい、分かりました」とあっさり帰す訳にはいきませんでしたが、幸い家の近くにヘルスセンターがあるということだったので、少しでも異変があれば直ぐにヘルスセンターに連れて行くよう伝えて帰すことにしました。

低出生体重児に起こりうるリスク、体温の調整、突然呼吸が止まることがあるため、1時間を超えて目を離すことがないこと、チアノーゼがでたら直ぐにヘルスセンターに連れていくこと。
お風呂は体温が下がるためしばらく入れないこと。
授乳は赤ちゃんが小さくて直接吸えないため、搾乳してからあげること。
ミルクを買うお金があればミルクをあげてほしいこと・・・。

奇跡的に状態が安定している赤ちゃんの生命力とお母さんの愛情、「自分で世話できる」という言葉を信じ、時間をかけて説明を行いました。
また、ヘルスセンター側にもカンボジア人の助産師を通じて情報共有し、何かあった際に連絡をもらえるよう調整しました。

その日の帰りのトゥクトゥク代も足りず、国立ポンネルー病院の助産師が値引き交渉をしてくれました。
そして、お母さんと赤ちゃんはトゥクトゥクで自宅に帰って行きました。
トゥクトゥクを見送りながら、赤ちゃんの無事を祈る気持ちとカンボジアの貧困の現実、本当に助けが必要な人に十分な援助ができないもどかしさ、悔しさがこみあげてきたのを覚えています。

赤ちゃんのその後については、後編でお伝えします。

柳 花苗 グローバル人材開発コース 助産師受講生 6期生

新潟県出身。6年間の助産師経験を経てジャパンハートの研修に参加。助産師の仕事が好きなこと、スキルアップもしていきたいという思いがあり、海外で助産師を続けながらスキルアップができる当研修に参加を決めました。


▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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