
2024年1月に開始した小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト。
小児がんの治療をラオス国内で完結できる体制づくりを目指し、国立子ども病院と連携しながら準備を進めてきました。
一方で、経済的な背景による受診のハードルの高さや情報・紹介体制の課題などから、なかなか対象となる患者とつながることができず、開始から約1年間、実際の医療活動には至らない状況が続いていました。
そうした中で出会ったのが、2025年2月に入院してきた生後2か月の男の子・ソンサイくんです。
診断は腎芽腫。小さな体に対して腫瘍は大きく、早期から継続的な治療が必要な状態でした。

初めて子ども病院へ来たころのソンサイくん
ソンサイくんは、本プロジェクトにとって最初に治療を支援する患者となります。
術前化学療法、手術、術後治療へと続く約1年の取り組み。
その時間は患者と家族にとってだけでなく、プロジェクトに関わる医療者やスタッフにとっても、多くの気づきと学びを得た期間となりました。
本レポートではこの最初の1年を振り返りながら、現場で関わった看護師や現地プロジェクト担当者が何を感じ、どのようにこのプロジェクトと向き合ってきたのかをお伝えします。
最初のひとりと向き合うということ
ソンサイくんの治療に継続して関わってきたのがプロジェクトを担当する根釜看護師です。
担当プロジェクトで初めて支援を行う患者さんということもあり、根釜看護師にとってソンサイくんとの出会いは印象深いものとなりました。
「なかなか患者さんと繋がることができない1年目を経て、ソンサイくんのサポートが始まったことで初めてプロジェクトが“動き出した”実感がありました。」
患者さんがいるからこそ、議論が具体的に進み出す――。
日本の医師とも何度も相談を重ね、ラオスの状況に合った治療や手術の進め方を、手探りで考えてきました。
「ソンサイくんがいてくれたから、先生たちも本気で一緒に考えてくれた。
その経験が次の患者さんをよりスムーズにサポートすることにつながったと思います。」

治療の過程で根釜看護師が特に意識していたのは家族への関わりでした。
長期治療による生活の変化や家族が離れて暮らす状況の中で、ラオス人スタッフのオーエンさんと連携しながら、説明やコミュニケーションの機会を工夫してきました。
「手術が終わったタイミングで、少しでもご家族にリラックスしてもらえたらと思って、日本食を囲む時間をつくりました。
その場でしか聞けない悩みや思いもあって、家族のことを知る大切な時間になりました。」
様々な理由で治療を諦めたり継続を望まない家族に出会い、関わり方に悩むこともあったといいます。
しかしソンサイくんの治療を通じて、根釜看護師の中には、プロジェクトへの向き合い方の変化も生まれました。
「以前はラオスの人たちの幸せを考えたときに、何もしないことも選択肢のひとつじゃないかと思ったこともありました。
でも、治療をして助かることで、その子と家族の未来につながるんだと、ソンサイくんを通して実感しました。
ラオスのいろんな場所に、同じように治療につながらなかった子どもたちがいる。
助かる“はずだった”命を助かる命に変えていくために、今まで以上に自分たちから患者さんへ繋がる努力をしたいと思っています。」

最初の一例が、現場を動かした
プロジェクトコーディネーターとして現地調整を担ってきたオーエンさんにとっても、ソンサイくんは特別な存在でした。
「1年間、プロジェクトは準備の段階にありました。
でもソンサイくんと出会って、初めて“プロジェクトを進めるために具体的に何をしなければいけないのか”が、はっきり見えてきました。」
両親が若く、長期にわたる治療への理解や協力がどこまで得られるのか――途中で治療をやめてしまうのではないかという不安もありました。
加えて、手術や化学療法のスケジュール調整、針生検の実施など、すべてが初めての経験でした。
「治療の流れも、正直よく分かっていなかったと思います。
化学療法の重要性やその責任の大きさを実際に動きながら理解していきました。」

針生検は本プロジェクトとして初めての医療活動となりました。
その経験を通じて、病院側の理解も少しずつ深まり、次の手術活動に向けた準備や患者家族への説明がプロジェクトチームとしてよりスムーズに行われるようになっていきました。
「患者さん家族と病院、どちらにもきちんと伝わるコミュニケーションが大事だと、強く感じました。
以前よりも先のことまで考えて、いくつかのパターンを想定しながら動けるようになったと思います。」
これまで、支援につながる前に重症化し、治療が間に合わなかった患者さんも少なくありません。
その経験があるからこそ、オーエンさんは患者と家族の立場をより強く意識するようになりました。
「私たちにとっては“患者さん”でも、家族にとってはたった一人の大切な子どもです。
ルールや基準を守る立場である一方で、その思いも忘れずに向き合っていきたいと思っています。」

最初のひとりから、その先へ

ソンサイくんは小児がんプロジェクトにとって最初に支援した患者さんです。
そして同時にこのプロジェクトが「現場で動くもの」へと変わっていく、その出発点でもありました。
治療を通じて積み重ねられた経験は医療者やスタッフの判断、連携の在り方を具体的なものにし、次の患者さんに向き合うための土台となっています。
それは一人の患者さんを支えた結果であると同時に、支える側の姿勢や覚悟が形になった時間でもありました。
ラオスには今も治療につながらないままの子どもたちがいます。
だからこそ、この最初の一例を確かなものとして、次につなげていくことが求められています。
ソンサイくんとの出会いから始まったこの一歩は、これから出会う子どもたちと、その家族の未来へと続いていきます。
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス 国立子ども病院での小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト
</p、

