高校二年生のとき、私は両親を相次いで病で亡くしました。それは私にとって初めて「命」と真正面から対峙した出来事であり、私の原点です。自分ではどうすることもできない現実を前に、「人の命を支えるとはどういうことなのか」を考え続けてきました。

2025年度長期学生インターン生としてジャパンハート・カンボジアで約1年間活動させていただきました、伊藤大輝と申します。
大学では哲学を専攻し、その中でもインド哲学の分野を研究しております。医療とはまったく異なる分野からこの現場にインターンという立場で飛び込みました。
カンボジア、そして医療へ向き合うことになった「原点」
私がこの活動に参加した理由には、個人的な背景があります。
高校二年生のときに両親を病気で亡くし、その後、あしなが育英会の奨学金に支えられて進学しました。
大学に入ってから、あしなが育英会の制度の一つである「海外留学研修」に参加する機会があり、その中からカンボジアを選びました。
2024年の夏、私は以前から所属していたカンボジアの農村部で教育支援を行う学生団体の活動の一環として、初めて現地を訪れました。
そこで目にしたのは医療へのアクセスが限られた環境で暮らす子どもたちの姿、そしてその現実と向き合いながら支援に奔走する人々の存在でした。
その経験から、「医療は誰が、どのように届けているのか」という問いが自分の中に芽生えました。
そしてもう一つ。
元々医師という職業に就こうとしていたことです。
将来の進路を考え始める大学の後半で、「医師に対する自分の思いを、もう一度、自分の目で確かめたい」と強く思うようになりました。
その一心で、私は医療の最前線に身を置くことを決めました。

医療を支えるということの「本当の意味」
私は医療者ではありません。
診断も治療もできず、点滴一本、処方一つにすら関わることはできません。その事実は、現場に立てば立つほど、重く心にのしかかってきました。忙しく行き交う医療者の背中を見送りながら、自分は医療の中心からわずかに外れた場所に立っているように感じていました。
それでも私はインターンとして医療者ではない立場に身を置き続けました。
診察室の中だけで完結する医療だけでなく、現場の外側で起きていることにも、人の命に関わる意味があるのではないかと感じたからです。
患者さんとそのご家族へのインタビューの中で語られるのは、症状と同じぐらい大切なものでした。
病院に来るまでの長い道のり、学校や仕事を休むことへの不安、病院までの移動手段、家族間での意見の違い、「本当に病院に行くべきなのか」という迷い。こうした一つひとつの要素が、治療にたどり着く以前の現実として存在していました。
医療は単に「受ける・受けない」という二択ではありません。
生活、家族、経済、文化と折り合いをつけながら、ようやく選ばれるものなのだと、私はこの現場で肌で実感しました。

言語・文化・専門性――目の前に立ちはだかった隔たり
1年間、さまざまな隔たりに向き合いました。
言語の違い、文化的背景の違い、そして医療という高度な専門性。
患者さんの話を十分に理解できず、言葉に詰まった日。
医療者の迅速で的確な判断を前に、ただ見守ることしかできなかった場面。

しかし、その「境界線」は関わるほどに少しずつ形を変えていきました。
人の言葉に耳を傾けること。
患者さんの表情を見ること。
医療者の思いを受け取ること。
その小さな積み重ねが、越えられないと思っていた線に、越え方を教えてくれました。
問い続けることが、境界を越える一歩
この1年で特に深く学んだのは、「問いを持ち続けて生きること」の大切さです。
なぜ治療を途中で諦めざるを得ない人がいるのか。
どうすれば医療の思いは地域に届くのか。
そして、自分は何者としてこの現場に立つべきなのか。
これらの問い自体は、決してこの一年で突然生まれたものではありません。
これまでも私は哲学を学ぶ中で「答えのない問い」を考え続けてきました。
しかし正直なところ、それらの問いはどこか思考の中に留まり、現実の場で生かす感覚を持てずにいたように思います。
実際の医療現場に立ったことで、問いは初めて人の生活や選択と直結したものとして立ち上がってきました。
哲学を学んできた私にとって、「答えのない問い」を抱え続けることはむしろ自然な姿でした。
医療現場はその問いに具体的な輪郭を与え、同時に人々の生活と結びつけてくれました。
境界線の外へ――これからも踏み出し続ける

皆さんに誕生日を祝っていただいた際の一枚
振り返ると、この1年は挑戦し続けた日々でした。
個人的な原点から始まり、カンボジアとの出会い、医療現場での学び、問い続ける姿勢。そのすべてが、自身の考え方や行動の幅を広げ、前に進む勇気を与えてくれました。
医療でも教育でも、国や文化を越える場所には必ず「境界」があります。
しかし、それは恐れるべき線ではなく、理解することで、寄り添うことで、少しだけ踏み越えてみることで、新しい景色を見せてくれる線です。
ここで出会った人々から学んだ姿勢と価値観は、私のこれからの人生に必ず生きると確信しています。
私はこれからも、問いを持ち続け、未知の世界に臆することなく、踏み出し続けたいと思います。
1年間私を快く迎え入れ、共に働き、支えてくださったすべての方々へ心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
長期学生インターン 伊藤大輝
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動
カンボジア ジャパンハートアジア小児医療センター

