サバイディー!(ラオス語で「こんにちは!」)ラオスオフィスの松原です。
2025年8月から9月にかけて、ラオス北部ウドムサイ県で推進中の甲状腺疾患治療技術移転プロジェクト(以下、「甲状腺プロジェクト」)を担当する関山看護師が、プロジェクトのパートナーであるウドムサイ県病院にて約1ヵ月間の長期滞在を行いました。
この滞在の主な目的は甲状腺プロジェクトの支援活動に加え、小児・周産期分野を中心とした地域医療の実態を調査し、今後の新規支援の可能性を探ること。
現場の医療者や患者、その家族との対話を通して、課題の本質と支援のあり方を見つめ直す機会となりました。
本レポートでは、滞在後に行ったインタビューをもとに、関山看護師がこの1ヵ月で見たウドムサイの医療の姿をお届けします。
ウドムサイ県病院敷地内の様子
ウドムサイでの1ヵ月間、どのような日々を過ごしていましたか?
一番よくいたのは、ER(救急)と小児科でした。処置の手伝いや患者さんの付き添い、カルテ確認や先生方への聞き取りなど、言葉が通じない中でも「今なにが必要か」を読み取りながら動いていました。
特に印象的だったのは、麻疹(はしか)の流行に直面したことです。私の滞在中に感染が急拡大し、病床を麻疹の子どもたちが埋めていきました。
でも、誰も慌てず、淡々と受け入れ体制を整えていく。現地の看護師や医師たちは、本当に多くのことを同時にこなしながら、穏やかに、臨機応変に動いていました。
手術を見学させてもらったり、患者家族と一緒に過ごしたり、病院のあらゆる場所を回って、現場の流れを肌で感じた日々でした。
シーツ交換を手伝う関山看護師(右)
麻疹の流行でベッドが足りず、屋外の廊下も臨時の病棟となっていた。
滞在中は手術の見学も。写真は婦人科の手術の様子。
現地で印象に残ったエピソードや人との関わりはありますか?
ある日、産婦人科の先生にお会いすると、夜間に9件の自然分娩に立ち会った後、そのまま寝ずに帝王切開の手術を行ったと聞き、驚きました。
そうしたハードな現場で「自分たちが地域を支えるんだ」と語る先生の言葉に、胸を打たれました。
また、若いお父さんお母さんが多く、育児や生計が十分とは言えない家庭も少なくありません。
けれど、親や親戚がしっかり付き添っている。現地では「支え合い」が自然と根付いているのです。
ウドムサイで生まれ育ち、英語通訳でコミュニケーションのサポートをしてくれた臨時スタッフのロットさんは、自身が感じる地元の保健医療の課題をリアルな言葉で伝えてくれました。
ロットさんと言語や文化の違いを超えて対話を重ねられたことは、「現地の人が、現地の人に伝える」ことの意義を共に考える時間になり、大変貴重な経験でした。
一晩で自然分娩9件と帝王切開1件をこなす産婦人科の先生(左) 医療で地域を支えたいという熱意を語ってくれた。
ここでは一晩にたくさんの命が生まれる。健やかに育ってほしいと願う気持ちは日本と変わらない。
ロットさん(右)は病院関係者にも知り合いが多く、言語以外の面でのサポートも非常に大きかった。
病院の雰囲気や、看護師さんたちの働き方はどうでしたか?
とにかく「穏やかさ」が印象的でした。
麻疹の大流行という非常事態の中でも、怒声や焦りがなく、どのスタッフもいつも通りに対応しているのです。
食事や休憩で病棟から看護師がいなくなる時間帯もありますが、それも「休憩しながら働く」文化の一部として患者さんや家族にも受け入れられていました。
看護学生も多く、病棟のスタッフと距離が近く、指示を待たずに自分で動いていました。先生がエコー所見の見方を教える姿もあり、実習と現場が一体化しているのが伝わってきました。
「忙しいけれども、殺伐としていない」。それが、ウドムサイ県病院の現場でした。
どんなに忙しくても病院スタッフには笑顔が絶えない。
プロジェクト活動や小児医療に関する気づきはありましたか?
甲状腺プロジェクトに関しては、11月の活動再開に向けて、術前後の看護指導や記録フォーマットの見直しを現地スタッフと進めました。
「使えるものにする」ために、プロジェクトに参加してくれている看護師たちと何度も話し合いを重ねました。
一方、小児医療については、医療に来られない人もいれば、自ら選択して来ない人もいるという現実に直面しました。
距離、費用、信仰、そして医療者への心理的ハードル――それぞれの事情により、小さな子どもが十分なケアを受けられずに命を落とすこともあります。教育の重要性、そして「現地の人が伝える医療の大切さ」を強く実感しました。
週に1回の内科診療に訪れた甲状腺プロジェクトの患者さんとご家族。
子どもが病気で苦しむのを見るのが辛いという親の気持ちは、どの国でも変わらない。早期に医療に繋がるという選択肢が広がることを願う。
最後に、ウドムサイにおける医療支援の形について、関山さんの考えを教えてください。
ただモノを支援したり、自分たちが考える方法を一方的に押し付けたりするのではなく、継続的に使える形、現場で活きる形で支えることが何よりも重要です。
ジャパンハートの活動は、こうして現地に入り込み、医療と人をつないでいくことに意味があると改めて感じています。
▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス 国立子ども病院での小児固形がん周手術期技術移転プロジェクト