活動レポート

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スタッフ皆でずっと見守ってきたファーちゃんの手術

up 2022.07.20

サバイディ!!長期ボランティア看護師の仁平です。5月中旬よりラオスで活動をしています。

先日の報告にもありましたが、6月にウドムサイ病院で甲状腺の手術活動が行われました。
今回の活動中に甲状腺の手術だけでなく、ジャパンハートのラオススタッフがずっと成長を見守ってきた女の子 ファーちゃんの形成手術も一緒に行いました。
吉岡先生を始め、ジャパンハートラオス・カンボジアのメンバーはもちろんのこと、ウドムサイ病院のスタッフ達が協力して下さいました。
また、手術に必要な医療物品の一部をラオ・フレンズ小児病院(LFHC: Lao Friends Hospital for Children)様がルアンパバーンから半日かけて届けて下さいました。
本当に多くの関係者の方々の協力があって、ファーちゃんの手術を行うことができました。

そして今回はそのファーちゃんという女の子について少しお話させて下さい。
私がファーちゃんと初めて会ったのは、去年の夏のお誕生日のときでした。ちょうど父親と一緒にビエンチャンの事務所に来る用事があり、スタッフ皆でケーキを用意してお祝いをしたのですが、日本語でありがとうと手を合わせてお礼をいうファーちゃんの姿がとてもかわいらしかったです。
そして、ファーちゃんが誕生日を迎えられるということをスタッフ達もとても喜んでいたことが印象に残っていました。

去年のお誕生日です

ファーちゃんは、ランゲルハンス細胞組織球症という病気を抱えています。ジャパンハートはファーちゃんが5歳のころからサポートを開始して、ずっと治療を行ってきました。
しかし治療の効果が見られず、その後維持療法へと移行し、昨年最後の治療(化学療法)を終えています。
現在は対症療法(病気に対する直接的な治療ではなく、現在ある症状を軽減するための治療)を行いながら定期的に通院しています。

普段は学校に通ったり(特にラオス語の授業;国語が好きだそうです)、親戚のお姉さんとダンスをしたり(キレッキレのダンスです!!)、お家のお手伝いをして過ごしているそうです。

ファーちゃんは右の耳の後ろに瘻孔があります。数年前に腫瘍の摘出術を受けましたが、摘出した後に正常な組織が育たず、大きな窪みのようになってしまっています。
今回、吉岡先生がラオスへ渡航することを知った父親から、この窪みの手術はできないかと改めて相談を受けました。(前回の手術も吉岡先生が執刀されました。)

また、昨年ファーちゃんの今後の状態について看護師から話をした時にも、両親からこの部分の手術をしてほしいという希望がありました。
普段は窪みのところをガーゼで覆っていますが、髪を結うと目につく部分です。
両親によると、やはり一歩外に出れば「どうしたの?」と尋ねられることが多いそうです。たとえ相手に悪気はないとしても、その度に両親もファーちゃん自身も病気のことを説明しなければなりません。

今は全身状態も良く元気に過ごせていますが、ファーちゃんの予後が厳しいことは家族も十分に理解しています。
両親としては、ファーちゃん自身に人目を気にさせるような辛い思いをさせたくない、少しでもその部分をきれいにしてあげたい、ファーちゃんに対してできることはしてあげたいというそんな親心が痛いほどに伝わってきます。
ファーちゃんももう11歳、この夏で12歳になります。看護師と通訳さんから手術について十分に説明を受け、理解した上で彼女自身も手術をすることを望みました。

ファーちゃんは、手術の前日に母親と一緒にビエンチャンからウドムサイにやって来ました。手術当日の朝は夜中からの絶飲食で空腹のため、いつもより少し元気がありませんでした。

無事に手術が終わって食事を開始した後はみるみる回復し、たくさんの甲状腺の手術後の患者さんを抱えている私たちを気遣い、小さなパニャバーン(ラオス語で看護師を意味します)として物品の整理などを手伝ってくれたり、時にはラオス語の先生にもなってくれました。

手術前の問診、少し緊張しています

手術後は傷の状態も良く、退院後は何か変化があればすぐに連絡をくれます。家族が丁寧に大事に傷のケアをしてくれているのがよくわかります。
もちろん本人も入院中から協力的でしたが、自宅でも傷が汚れないようにシャワーを浴びたり、強く圧迫しないように寝る時にはずっと左を向いたりと、今も頑張ってくれています。

傷の状態のチェックのためにファーちゃんの家を訪ねた時、ラオス人スタッフと両親は色々な話をしていました。もちろん世間話などもしていると思いますが、やはりラオス人同士、そして付き合いが長いからこそ、両親も思いを吐き出しやすいのだろうなと思います。

ファーちゃんが幼い頃から化学療法を行いその副作用で入退院を繰り返しているとき、治療の効果がみられず維持療法へと移行になったとき、今後の支援をどうするべきか見直されたとき…
これまでの長い間ずっとファーちゃんと家族を見守ってきてくれているラオス人スタッフがいます。

彼は「彼女が本当に大変だった時は病院に何度も通ったし、これまでの経過も今の状況も理解している。ジャパンハートからの支援は続けられることになったけれども、今、自分たちにできることは病院の診察代のサポートだけだ。だから今回、手術ができて本当に良かった。彼女も家族もHAPPYに感じているよ。」と話してくれました。

彼のようにラオス人スタッフ達も皆同じ思いで患者さんや家族と関わってくれているということがとても有難いと同時にとても心強く思いました。そして今回の手術を無事に終えることができたのは、誰もがこの手術が成功してほしいと思い、動いてくれたからだと実感しています。

大きいシャボン玉、案外むずかしい…意外と喜んでくれています

ファーちゃんの右耳の瘻孔は、今回の手術をしたからといって病気自体が良くなるわけではなく、直接命に関わるものではありません。そして手術が無事に終わったとしても、今後、傷の状態が悪くなる可能性も十分にあります。
だからこそ、たとえ彼らが望んでいたとしても、本当に手術をすることがファーちゃんにとって良いことなのだろうかという葛藤があったのではないかと思います。
それだけでなく、今回の甲状腺の手術活動では、これまでよりも手術件数もリスクの高い患者さんも多いという状況でした。
その中でファーちゃんの手術を行うことへの不安もあったと思います。それでもファーちゃんと両親の意思を汲み、「やろう」「吉岡先生に相談してみよう」という最初のその決断があったからこそ、今のファーちゃん達のこの笑顔があるのだと思います。

私たちはいつも患者さんにとって最善の医療やケアを提供したいと考えています。でも必ずしも“私たちが考える最善の医療やケア” = “患者さんの幸せ”ではないのだということを日々感じています。
患者さんのために一体自分に何ができるのだろうかと悩み、葛藤し、模索する毎日です。

それでも今、ファーちゃんに私たちがしてあげられることがもう限られている中で、ファーちゃんと家族の希望に答えられたということは、ただ嬉しく思います。
そして命を救うことだけが“患者さんにとっての最善の医療やケア”ではないのだと、ファーちゃんや彼女と接するラオス人スタッフ、日本人看護師の姿を見ながら改めてそう思えました。

病気自体を治すことはできないけれども、この手術を受けられたことで少しでもファーちゃんと家族が幸せと感じられる時間を多く作ることができたらと思います。
今回ファーちゃんの手術を行うことに賛同し、協力して下さった皆様に本当に感謝しています。これからもスタッフの皆でファーちゃんの成長を見守っていきます。

お家を訪ねたときに“何か”をお礼にくれました。とても美味しく頂きました

長期ボランティア看護師・助産師 仁平 杏

▼プロジェクトの詳細はこちらから
ラオス | 北部・ウドムサイ県での甲状腺疾患治療事業並びに技術移転活動

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