活動レポート

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蓮人くんが教えてくれた私たちがココに居る意義

up 2022.10.24

写真のかわいらしい子の名前は蓮人くん、8歳の男の子です。
筋ジストロフィーと言う病気で、呼吸は自分の呼吸もありますが、呼吸器での補助が必要で、口から物を食べる事が難しく、経管栄養(鼻から直接胃に管を通し、栄養を注入する)が必要です。
気管切開も行っていて痰の吸引などの医療的ケアが必要なお子さんです。

7月某日、ジャパンハートの沖縄濃厚接触者隔離施設に一本の電話がありました。
蓮人くんのお母さんからの電話でした。
内容は「自分(お母さん本人)や蓮人くんの兄弟がコロナに感染してしまい、医療的ケアが必要な蓮人くんを預かってほしい」ということでした。

女手一つで一家を守り、普段、蓮人くんのケアをしているのもお母さんです。
そのお母さんがコロナ感染により体調を崩していらっしゃいました。

いつもレスパイトをお願いしている施設もこのコロナ禍でベッドが空いておらず、ショートステイで預けた事がある施設も濃厚接触者となるとお預かりは難しい。
そうなるとお母さんが引き続き蓮人くんのケアをしなくてはなりません。
熱が出ていても、具合が悪くても、蓮人くんに感染させないかという恐怖がありながら蓮人くんの食事・水分(経管栄養)管理、人工呼吸器の管理をし、吸引をし、24時間体制でケアを行う。という事になります。
そんなお母さんからのSOSの電話でした。

当施設の看護師スタッフはメインスタッフ1名を除くと他はスポット。いわゆる単発~中期滞在で入れ替わり立ち替わり支援に入るスタイル。日勤・夜勤それぞれ一人勤務体制で運営していました。
この活動に関わりたく、色々な方面から集まったメンバーなので、その時に集まるスタッフの経験値も様々です。
さらには医療的な設備は十分とはいえない当施設。元々65歳以上の方を対象とし運営しており、小児の受け入れは初チャレンジ。と言う状況でした。

これは私の主観ですが、多くの看護師は「小児」の経験が無ければこの依頼は、一端、躊躇するのではないかと思います。
常に一人の勤務体制でもあり、医療設備の整っていない施設で、人工呼吸器やその他の細かいケアを要する。
それが「小児」となると、いくら経験がある看護師でもハードルはまた上がるのではないかと思います。
なので実は今回、お母さんからの依頼を受け、その時のメンバーで受け入れについて相当話し合いました。

私はたまたま医療的ケア児の訪問看護の経験がありましたので、イメージもついたし抵抗はありませんでした。
他のメンバーは成人の看護経験しかなく、小児・呼吸器・諸々のケアについても不安があり、看護師一人の勤務体制であることから不安があるということで最初は受け入れに消極的で、一時はお断りの話も出ていました。

しかし、ここで私たちが断ったらこの子はどうなるの?という問いを自分達に投げかけた時、覚悟がきまりました。
“「受け入れる」その一択しかない” と。

未経験のメンバーのわからない事や不安は経験したことのあるメンバーがわかるまで教える。そのフォロー体制を作ればいける。
幸い、蓮人くんに普段介入されている訪問看護ステーションの協力も得られるということで、24時間体制でサポート出来る体制を作り、メンバーそれぞれ受け入れの準備をしてくれて受け入れることが出来ました。

入所時は私の夜勤での受け入れだったのですが、日勤のスタッフも何をするでもなく残っていて、誰も何も言ってないのに休みのスタッフも出てきて、蓮人くんの受け入れ(器械のセッティングや使い方の確認)を夜中までせっせと行って、
訪問看護師さんのレクチャーを受けて器械の使い方を覚え、栄養・水分補給・排痰ケア・排泄ケア・清潔ケア等の個別の方法や細かいスケジュールを確認して、
(普段はほぼ残業なく勤務時間内にきちんと帰ります(笑)。)
そのような感じで受け入れが開始となり、最初はみんな恐る恐る蓮人くんのケアを行っている印象でした。

それでも、日を追うごとに慣れて行き、最初はぎこちなかった抱っこも、気管切開のチューブに注意しながら、いつの間にかスムーズに行えるようになっていきました。
蓮人くんはお話は出来ませんが、こちらの言っている事はわかっています。
なので、寂しい時は声を出したり、表情を変えてみたり、涙を流してみたり、笑顔を見せてくれたり。
その日の勤務スタッフが毎日蓮人くんの写真や動画を撮り、グループLINEで「今日のレンちゃん」と状態を報告。蓮人くんはいつの間にか私たちの癒しになっていました。

入所から約11日間、蓮人くんをお預かりしお母さんが無事に迎えに来られた時、お母さんに感謝の言葉を頂き、さらに後日「ジャパンハートの皆様、レンちゃんの命を繋げて頂いてありがとうございます」とメッセージも頂きました。
もう…感無量です。

今回、蓮人くんを受け入れると覚悟を決めた時の問い…
「ここで私たちが断ったらこの子はどうなるの?」
という問いは、ジャパンハートの創設者の吉岡秀人先生から教わったことです。

私は以前ジャパンハートの国際看護師研修生・アドバンスドナースとしてミャンマー・カンボジアで医療活動をしていました。
その時に吉岡先生から教わった事はこういう事です。

「それでお前はどうする?」と言う問い。
「医療の届かないところに医療を届ける」「心に寄り添う医療」と言う事。

海外、途上国であっても日本であっても、どこであってもジャパンハートが行う医療はこういったハートの部分なのだと思います。

「ここが断ったら終わりやろ」ってこと。最後の砦的部分。

蓮人くんはこのような私たちが大切にしたいこと、「私たちがココに居る意義」を実感させてくれました。

今回、蓮人くんからもらったものはそれだけではありません。
関わらせてもらった看護師一人ひとりに癒しだけでなく成功体験を与えてくれました。
最初は“小児・医療的ケア児”に苦手意識があったスタッフにも、自分もやればできるんだという自信を与えてくれ、それぞれの成長につながりました。

今回の蓮人君の受け入れはスタッフにとってそれだけ大きなことだったと思います。
当施設にアクセスしてくれたお母さんに、蓮人くんに、本当に感謝しかありません。

そして今回、蓮人くんを受け入れるにあたり、24時間サポートすると言ってくれ、フォローに入ってくれた「いきがいサポートステーション」の訪問看護師の皆さん、入所の段取りをしてくれた行政の皆さん、後方支援してくれたジャパンハートスタッフ。
皆様に感謝の気持ちを伝えたいと思います。ありがとうございました。

もしあの時、ジャパンハートが蓮人くんを受け入れなかったら・・・
具合が悪いお母さんが感染させないか恐る恐る蓮人くんを看病していたのだろうか・・・
もしかしたら蓮人くんが感染して全身状態が悪化していたかもしれない・・・
そう思うと、この連携で蓮人くんの「命を繋ぐことができたこと」に本当に感謝しています。

今回、私たちがココに居る意義を再確認させてくれた蓮人くん、お母さん本当にありがとうございました。
当施設は9月をもって閉所となりましたが、今後この様なケースの時も、この子たちが当たり前に医療を受けられ、安心して生活が出来る体制が整う事を願います。

看護師 西海茜

地域医療・国際緊急救援事業部では自然災害発生時に被災地で活動を行う
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