活動レポート

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異文化の中で、栄養士として働くこと

up 2020.12.14

こんにちは!栄養管理部の川合です。私が、ここジャパンハートこども医療センターに栄養士として赴任し、早9カ月が経ちました。
毎月栄養管理部の活動についてご紹介させていただいていますが、今日は日々の仕事内容や、栄養士ならではの魅力と葛藤についてお話ししたいと思います。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

まず、カンボジアには、まだ栄養士という職種はありません。

実は、世界中で栄養士がいる国は1/4程度です。日本だと当たり前の職種ですが、ここカンボジアは「栄養士って何?」と言われる国の一つになります。
では、誰かが栄養士の仕事を代わりにやってくれているのか、というとそうではありません。

食事で健康を作る、栄養指導で闘病を支える、といった健康増進・疾病予防の概念が一般的ではないので、食事療法的なものは、そもそも見過ごされてきた部分があります。そんな、栄養士に対する認識が大きく異なる環境の中で、私たち栄養管理部はコツコツと活動の幅を広げています。

①スタッフと子どもたちに、おいしくて食べやすい食事を

メインの仕事は、調理です。調理師/栄養士を分けていないので(と言うか、栄養士がいないので…)日々みんなでスタッフと子どもたちに料理を作っています。

提供する食事は、もちろんカンボジア料理。酸味を活かした料理が多いので、一度この日本食ならいけるかな?とスタッフ向けに鯵の南蛮漬けを作ってみたことがあるのですが、あまり好評ではありませんでした。カンボジア人、レモンやタマリンドの酸っぱさは好きだけど、お酢は違うのか!などと日々学んでいます。こういう味覚の違いは、とても興味深いです。

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私もよく調理に入るのですが、カンボジアは野菜の種類がとても多く、未だに初見の野菜に出会ってばかりです。下処理や調理方法はスタッフに教えてもらい、慣れない野菜に手こずる私は全然できないじゃん!と笑われながら一緒に料理を作っています。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

元々、スタッフと子どもたちには同じ食事を提供していましたが、今は子どもたちには別鍋で調理しています。苦みや辛みの強いもの(カンボジア料理には多いです)は素材を変えて食べやすいものに。小さく刻み、やわらかい味に仕上げて提供します。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

また、赤ちゃんの補完食として、月齢によってBobor Khap Krop Kroeungと呼ばれるカンボジアの具沢山おかゆを提供するようにもなりました。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

給食センターが始動したのが昨年10月、子どもたちに全日提供を始めたのは今年の4月です。大量調理を行うことが主な仕事だったスタッフ達も、子どもたちへ目を向ける時間が増え、給食センター内で子どもたちの名前を聞く機会がどんどん増えています。スタッフが皆、日々一人一人のことを考えて料理をしてくれていることを実感しています。

②子どもたちの成長を見守る

また、週に1度喫食率を調査し、食事を提供するだけでなく、食べ具合や好みも把握するようになりました。ゆくゆくは全日調査を目指していますが、調理が中心であったスタッフが、小児病棟へ足を運ぶ時間を作るようになってくれたことも、大きな前進だと見ています。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

栄養はほかの医療介入と比べても、結果がすぐに見えづらい部分があります。
そこで毎月、身体測定を行ってベッドサイドの身長曲線に記入し、「ほら、いっぱい食べたからこんなに大きくなったよ!すごいね!」と親御さんや子どもたちに気づいてもらえる機会も作っています。

先日、スタッフのミールラウンドの様子を覗きに行くと、お菓子ばかり食べている子に、身体曲線を使いながら食事の重要性を説明している様子を見かけました。
実は栄養管理部スタッフはほとんど英語が話せず、クメール語歴9カ月の私はなかなか丁寧な指導に入れないのですが、しっかりとスタッフが“栄養”の視点を持って活動してくれている様子を見ると、とても嬉しくなります。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

③栄養バランスを考えた献立を

カンボジアの食事は、昔の日本のように炭水化物摂取割合がとても大きいです。ただ、病院ではせめてバランスを整えて出せるよう、たんぱく源や野菜はしっかり入れることを意識して献立を作ってきました。

栄養管理として確実に行いたい栄養価分析・計算もやっと今月から取り組んでいます。まずは、提供しているカンボジア料理の現状を把握するところから。
カンボジアには一般的な食品成分表がなく、使用食材の半分近くは日本の食品成分表にさえ載っていません。隣国タイ・ベトナムの成分表を用いたり、似た食材で代用しながら分析しています。鯰、雷魚、空心菜、モリンガ、ジャックフルーツ、、成分表を見つけるまでに、多くの国のウェブページを行き来する必要があります。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

また先日、わたしが休みの日に記録をお願いしたところ、「野菜●g、肉●g」と書かれたメモが。肉の部位、なんて細かいところはまだ良いけれど、せめて種類は!?なんてほっこりさせられました。
塩分量、調味料の量、配膳する量…たくさん考えていかなければならないことはありますが、文化と密接に関わる“食”にアプローチする部署だからこそ、カンボジアの料理や食文化をしっかり理解しながら進めていきたいと考えています。

④患者さんの心に寄り添った給食提供を目指して

わたしとの共通言語はなく、栄養だけでなく医療分野での経験も初めてのカンボジア人スタッフたち。一緒に働く中で大切にしているのは、「病院の一員としてどう患者さんの健康に関わることができるのか」という視点です。

レストランや食堂で働いているわけではなく、あくまでも“病院の”給食センター。栄養という概念、栄養士という仕事がない国で、患者さんの日々の状態や、食べやすさ、衛生面に対して意識を高く持ってもらうためには、知識云々ではなく、お互いの信頼や、想いを同じくする時間をしっかり作っていく必要があると思っています。

料理は、心があって完成するもの。たくさん食べてほしい、元気に大きくなってほしい。そういう「想い」を給食を通じて、子どもたち一人一人に届けていきたいと考えています。

ここの組織内だけでなく、国全体を見ても栄養士がほとんどおらず、まだまだ発展途上の栄養管理部。だからこそ、もっと良くできる可能性がたくさんあるし、栄養で救える命や人の心が、この国にはまだたくさん溢れていると感じます。
いつか、そんな人のところまで届くように、これからも活動を続けていきたいです。

異文化の中で、栄養士として働くこと ジャパンハート

▼プロジェクトの詳細はこちらから
医療支援 | カンボジア ジャパンハートこども医療センター 栄養管理部

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