活動レポート

← 活動レポート:トップへもどる

お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編 – 調理師 小山善三さんのレポート

up 2021.03.19

本活動レポートは、12月から3か月間、カンボジアでボランティアとして活動して下さったベテラン調理師小山善三さんが書かれたものです。小山さんはカンボジアのジャパンハートの医療活動を支えるため、コロナ禍の入国後14日間の強制隔離を経て現地入りしてくださり、栄養管理事業のサポートをして下さいました。そんな小山さんがカンボジアでの活動を通して感じたことをレポートしてくださいました。ぜひご覧ください!
前回までの活動レポートはこちら
お食事処 こやま ウドン店 顛末記1 壮大な暇つぶし編

「お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編」

さて、栄養管理部。
ここでは入院している小児がん患者の入院給食と、病院職員の給食を作っている。

病院の栄養管理だから「臨床栄養」かと思ったら、カンボジアはそんなことをやるフェーズじゃなかった。もっと手前の「健康のために、ご飯とお肉とお野菜を、バランスよく食べましょうね!」って呼びかける段階。

まったく専門外の栄養学。栄養士は、調理師にとってはいわば天敵(笑)日本各地の病院や給食センターで、調理師と栄養士は、喧嘩しながら仕事している。
「栄養が整わなきゃダメ!(キリッ)」の栄養士 対 「わざわざ不味いもんなんか作れるか!(怒)」の調理師。
ウルトラセブンとバルタン星人の関係。

だけど、カンボジア国内には、流通している食品の栄養分析表すら満足なものがない。この状況では、おそらく日本の病院栄養士の手には、到底負えないことの方が多いんじゃないかと思う。 給食センターの職員食堂で観察していると、ちゃんと味をつけた給食のおかずに、カンボジア人スタッフの多くが、塩、砂糖、チリソース、醤油類をかけて食べている。医者も看護師も。

お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編  - 調理師 小山善三さんのレポート

流石に「砂糖と塩と脂の濃い味付けの少量のおかずで、腹一杯の銀シャリを食べるのが幸せ(^^)」って食生活は見ていられない。肉体労働者でもないのに、こんなもん続けてたら、みんな高血圧と糖尿と脳卒中と脚気で死んじゃう。日本人には珍しい「公衆栄養」を専門とする栄養管理部リーダーが説く危機感は、理解できる、共有できる。そう気づいちゃったら、放ってはおけない。走り始めるしかない。

お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編  - 調理師 小山善三さんのレポート

現代の日本人は大きな勘違いをしている。自分たちの食文化を「うす味」だと、思い込んでいる。

昭和の頃、おじいちゃんやおばあちゃんが、一人前のご飯とおかずとお味噌汁を食べた後に、今とは比べ物にならないくらいに塩気の強い「イカの塩辛」や「塩鮭」「梅干し」、糠漬けには醤 油をぶっかけて、もう一膳!の締めのお茶漬けを食べていたのを覚えている人は多いと思う。実は、伝統的な和食の薄味は「宮廷料理」のもので、庶民とは無縁だったのだ。かの織田信長は、 雇った元朝廷の四条流大膳職の薄味に激怒し、切腹を命じようとしたと記録が残っているくらいなのだ。

昭和期までは、ケーキも、ベタベタと甘いバタークリームと重い生地だった。今のように「塩分控えめで美味しいよね」「甘過ぎなくて、エアリー(和製英語)な食感がgood」ではなかったのだ。

それが、80年代初頭からの「各種健康食キャンペーン」で、すっかり日本食の味つけは、庶民の食の好みは変わった。なぜか。
高度成長期を分水嶺に、第一次産業から第二次、第三次産業へ労働者は大きく移行した。なのに 日本人の食習慣が、その変化についていけなかった。どうすればいいのかも、よくわからなかったんだろう。カロリーの過剰摂取が原因で、生活習慣病が急増したのだ。

政府は、日本人の健康を維持・促進するために、監督官庁が食品製造企業に指針や勧告を出して、製造される加工食品や調味料から、塩分と糖分と脂質を少しずつ減らすように指導を続けた。ビタミンとタンパク質の摂取を働きかけた。そうやって、日本人の現在の味の好みは、誘導されて身についたものなのだ。実際に、それが効果を顕したのは2000年頃。その頃から、目に見えて生活 習慣病は減ったのだ。

世界一従順な国民性の日本人でさえ、20年を掛けなければならなかった。それも、国民のほとんどが、国策で変えられたことには気付いていない。自分たちは、自分の意思で選択をした、もしくは、元来こういうものだったんだと、思い込んでいる。そのくらい、ゆっくりとしか「食習慣」や「習俗」は変えられない。

それをカンボジアは、今からやらなきゃならない。始めるのに早いも遅いもない。いま始めれば、少しでも早く、ひとりでも多く、未来の患者を減らすことができる。

カンボジア国民全員の食の好みを、すぐに変えることなんか、誰にもできない。こんなことは、如何なジャパンハートと言えど、ひとつの病院、ひとつのNGOの矩を超えた取り組みだ。

こういう時は、足元から始める。まずは、身内のスタッフへの啓蒙から始める。そうでないと、いつまでもこの問題に誰も取り組めない。そう思って、2月のオールスタッフミーティング(月一 回の、ほぼスタッフ全員が揃う全体会議です)で、一説ぶたしてもらった。もちろん栄養学の門 外漢である僕の話なので、普通の日本人には当たり前の一般常識の話。付け焼き刃も要らない程 度の「塩と砂糖と脂は控えましょう!」って、健康茶のCMみたいなスピーチ。スティーブ・ジョブズをイメージしてください(笑)

お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編  - 調理師 小山善三さんのレポート

それでも、後日、幾人かのカンボジア人医療者から「これからは塩や脂を控えるよ」との言葉をもらえた。この医者や看護師たちが、気になる患者に今までより強く「塩を控えなさい」と言ってくれたら、それはカンボジアの未来に、少しだけ貢献できたのかもしれない。堤を崩す蟻のような働きになれるのかもしれない。

手探りで進む時には、走りながら考えるしかない。考えてから走っていいのは、正解が分かっている時だけ。この問題の正解を導き出す方法を知っている人は、この世のどこにもいない。どこにも答えは用意されていないのだ。やってみて失敗したら、このやり方では駄目なんだって結果が得られる。

コストパフォーマンスと物理的な効率性ばかりが求められる現代。だけど本当の世の中は、そんなに効率よくできていない。ERRORの回数を減らす努力は必要だが、残念ながら愚直にTRYを繰り返すしかない。そのデータは、後で必ず役に立つ。だって、誰も見たことのない《未来》の話なんだから。
(ちなみに、人間は、この辺りのくだりで、ワクワクする人と、白ける人の2種類に分けられます。で、この2種類は、笑っちゃうくらいに絶望的に交わらない。これはどうにもならないので、仕事を一緒にさせちゃダメ)

政府が呼びかけても誰も聞かないなら、数人が納得して聞いてくれた僕の呼びかけの方が、効果 があったことになるもんね笑笑。少なくとも言葉をくれたスタッフの家族や子どもは、生活習慣 病からは一歩遠のいたはず。たった17分のスピーチで、一家族の将来を変えられたら、俺の勝ち!と自己満足。
お世話になった栄養管理部に、「この種子」が、せめてもの『置き土産』となればいいね。

ちなみに、この時の日本語のスピーチは、英語とクメール語に翻訳されて、全スタッフが共有でき るようにしてもらう予定です。 語意通りの「有難き幸せ」(^.^)

2021年3月11日
ボランティア調理師 小山“ますたあ“善三

お食事処 こやま ウドン店 顛末記2 怒涛の栄養管理部編  - 調理師 小山善三さんのレポート

▼プロジェクトの詳細はこちらから
医療支援 | カンボジア ジャパンハートこども医療センター 栄養管理部

Share /
PAGE TOP