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“足を残すか、命をとるか” 7歳の少年ヴィトウの決断 【カンボジア 小児がん】

up 2023.10.26

カンボジアの小児がんの少年

7歳のヴィトウ。「横紋筋肉腫」というがんと闘っています。
この10月、ヴィトウは片足を切断しました。
「足を残すか、命をとるか」。わずか7歳にして非常に難しい切断を迫られたヴィトウ。
そばで見守ってきた学生インターンの視点から決断の裏側についてお伝えします。
(髙橋明日香 長期学生インターン)

“おとなしい男の子” ヴィトウ

ヴィトウがはじめてジャパンハートの病院、「ジャパンハートこども医療センター」に来たのは今年6月半ば。年明けから左の太ももが痛み始め、次第に腫れも出てきたので、最初は別の病院に行って検査を受けたそうです。

その病院でがんの疑いを指摘され、治療を受けるために自宅から車で5時間以上も離れたジャパンハートの病院に来ました。

診断は「横紋筋肉腫」。

筋肉や脂肪といった軟部組織にできる悪性腫瘍で、腫瘍が発生する部位によって症状は異なりますが、腫れや痛みのほか、腫瘍の圧迫によって、鼻血、頭痛、便秘、腹痛など、さまざまな症状があらわれます。

カンボジアの小児がんの少年

【入院当初のヴィトウ】

ヴィトウの場合は左の太ももに大きな腫瘍があり、ジャパンハートの病院に来た頃は痛みで歩くこともできないほどでした。痛みが強かったからか、最初の頃は「おとなしい子」という印象で、写真を撮ろうと話しかけても笑顔を見せてくれませんでした。今ではすっかり病棟のムードメーカーになっているヴィトウですが、この頃の姿からは想像もできません。

切断を避けるため 抗がん剤治療に望み

カンボジア西部、バッタンバン州出身のヴィトウ。
がんが発覚した時は小学校2年生になったばかりだったそうです。

ジャパンハートの病院にきた段階で腫瘍が大きくなっていたため、「足の切断」を視野に入れざるを得ませんでしたが、本人も家族も、そして医療チームも可能な限り切断を避けるため、抗がん剤治療で腫瘍を小さくした上で、足を切らずに腫瘍のみを取り除く可能性に望みを託すことにしました。

そして、ヴィトウの10か月にも及ぶ抗がん剤治療が始まりました。

カンボジアの小児がんの少年

【抗がん剤治療を受けるヴィトウ】

抗がん剤治療の副作用で高熱や吐き気に苦しめられながらも、ヴィトウの症状は急速に改善しているように見えました。車いすを使わずに歩いたり、サッカーやバレーボールができるようになったり。

私たち学生インターンが小児がん病棟で開いているイベントにも積極的に参加してくれて、折り紙や塗り絵にハマっていました。好奇心旺盛で飲み込みが早いヴィトウは、日本語の勉強にもチャレンジして、今ではひらがなを五十音順で全て書けるようになりました。

表情も明るくなり、入院当初からは想像できないほど活発な姿を見せてくれるようになったヴィトウ。このまま抗がん剤治療だけでがんが治るのではないかと思うほどでした。

迫られた決断

しかし、がんは残酷な病気です。がん細胞の広がりを調べるCT検査の結果、これまでの抗がん剤治療では足の切断を避けられるだけの効果は出ていないことが分かりました。

無理をして部分的に切除したとしても将来歩けるようになる可能性はほとんどない。生きるために、足の切断は避けられない。医療チームが出した結論を聞いたお母さんの気持ち、そしてこれから知らされるだろうヴィトウのことを思うと、私は胸が張り裂けそうでした。

ヴィトウとご家族は、離れて暮らすお父さんやお姉さんと話し合って決めるために一時的にお家に帰りました。そして約1週間後、ヴィトウとお母さんは「切断する」という決断をして病院に戻って来ました。

体を動かすことが大好きで、いつもボールを追いかけているヴィトウ。決断の裏にどれほどの葛藤があったか、私には想像もできませんでした。

迎えた手術の日

ヴィトウの手術は10月、最高顧問である吉岡秀人の渡航に合わせて行われることになりました。

手術当日の朝、居ても立っても居られずに病室を覗くと、私の予想に反してヴィトウはいつも通り笑顔で迎えてくれました。私の前にもお友達やスタッフが様子を見に来て、仲良く時間を過ごしていたようです。

これから手術を受けること、足を切断すること。ヴィトウは全て理解しているようでした。手術前の診察中も笑顔のままで、終わり際には手を合わせてスタッフに「ありがとう」と伝えていました。

カンボジアの小児がんの少年

あっという間に手術室に入る時間になり、お母さんに頭をなでられながら自分の足で手術室に向かったヴィトウ。最後まで笑顔を見せていましたが、目には涙がたまっていました。

約4時間後、手術が終わったと連絡がありました。ヴィトウはICU(集中治療室)に移り、たくさんのスタッフに囲まれていました。近づくと、包帯が巻かれたヴィトウの左足が目に入りました。頭では理解していましたが、左足がなくなっているのを見てやはりショックでした。

それでも、必死に呼吸するヴィトウの姿、ずっと側を離れず看病するお母さんの姿に、私がショックを受けている場合ではないと思いました。ただただ今はゆっくり休んでほしい、その思いでいっぱいでした。

変わらない笑顔

カンボジアの小児がんの少年

数日後、ヴィトウは病室に戻りました。今までのように笑ってくれるだろうか、足を切断したことを受け止めきれているだろうか。はじめて病室に戻ったヴィトウを訪ねる時、少しドキドキしている自分がいました。

それでも、すぐにそんな風に考えていたことを反省しました。ヴィトウは今までと何も変わらない、無邪気な笑顔を見せてくれました。ヴィトウの賢さと強さを改めて思い知らされ、私の方が救われた気持ちでした。

命を守るために重く難しい決断をしたヴィトウと家族。これから先、術後の抗がん剤治療やリハビリが待っています。ヴィトウならきっと乗り越えていけるはず。もし、辛くて泣きたい時がきたら、そんな時こそ少しでも寄り添えるような存在でありたいと思います。


高橋 明日香(学生インターン)

2月から広報業務に携わらせていただいている、学生インターンの髙橋です。応援してくださる皆様の想いとカンボジアにいる患者さんとを、広報を通じて繋げられるよう精一杯頑張ります。よろしくお願い致します。


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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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