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【カンボジア医療活動】カンボジア人事務スタッフが見た医療現場 ー 非医療スタッフが支える「もう一つの医療」ー

up 2025.12.23

病院にたどり着くまでに、患者さんはすでにさまざまな不安や困難を抱えています。
交通費がない、治療費が心配。
そうした「治療の前にある壁」を前に、受診そのものをためらってしまう人も少なくありません。

その壁に向き合い、患者さんが安心して診療にたどり着けるよう支えているのが、ジャパンハートの事務スタッフです。
病院は多くの職種が協力し合うことで成り立っています。

本レポートではその中でも、医師や看護師と並び、治療を支える重要な存在である事務スタッフに焦点を当てました。
ジャパンハートの医療現場では彼らが受付や書類業務にとどまらず、患者さん一人ひとりの背景に目を向けながら社会的な困難を抱える家庭を適切な支援へとつなぐ役割を担っています。

医療行為を直接行う立場ではありませんが、患者さんが診療にアクセスするための基盤を支える存在として、事務スタッフの働きは医療を成立させる重要な要素となっています。

事務スタッフの仕事は来院した患者さんの対応から始まります。
受付、案内、書類確認といった基本業務に加え、患者さんの生活状況や不安を丁寧に聞き取り、必要な支援へとつなぐ「患者支援」も日常的な業務の一つです。

【カンボジア医療活動】カンボジア人事務スタッフが見た医療現場 ー 非医療スタッフが支える「もう一つの医療」ー

医療を陰で支える人たち ーその知られざる役割

例えば、手術や検査が必要だとわかっても、費用や交通手段の問題で来院をためらう家庭があります。
そのような時、事務スタッフは患者さんの状況を丁寧に聞き取り、公的補助の申請方法を説明し、必要書類の作成を一緒に進めます。
制度の仕組みは複雑で患者さん自身が情報にアクセスするのが難しいことも多いため、窓口への同行や関連機関との連絡も行います。

また、遠方から来る家庭には宿泊や食事の案内をするなど、治療を継続できる環境づくりにも関わっています。
医療チームとの調整も欠かせません。
専門用語が多い医療説明を患者さんの目線に合わせて伝えることは簡単ではありませんが、十分な理解が得られることで治療の継続に大きく影響します。
さらに、文化的・宗教的背景によって治療の受け止め方が異なるため、患者さんと医療者の間で意思のすり合わせを行うこともあります。

一方で、事務スタッフが直面する課題は少なくありません。
公的支援制度の情報が最新ではなかったり、申請手続きに時間がかかったりするほか、患者の生活状況が厳しいほど支援が複雑化し、対応範囲が広がることもあります。
それでも、こうした社会的支援は患者の生活に大きく影響するものであり、行政や地域団体との連携を強めながら、より良い支援の形を模索しています。

【カンボジア医療活動】カンボジア人事務スタッフが見た医療現場 ー 非医療スタッフが支える「もう一つの医療」ー

事務スタッフ・ソペアップさんが語る「現場のリアル」

ジャパンハートで8年間勤務する事務スタッフ・ソペアップさんは医療を“つなぐ”立場として働く意義について、次のように語ります。

【カンボジア医療活動】カンボジア人事務スタッフが見た医療現場 ー 非医療スタッフが支える「もう一つの医療」ー

【以下、事務スタッフ・ソペアップさんコメント】
この病院で働くことを決めたのは生活を安定させたいという思いと人を支える仕事を続けたいという気持ち、その両方があったからです。
以前は教師としてボランティア活動をしていました。
その経験を通して、支援に関わる仕事をこれからも続けたいと強く感じるようになりました。

また、これまでに航空券の発行など事務の仕事をしてきた経験もこの現場で役立てられるのではないかと思い、ジャパンハートへの就職を決めました。

日々の業務の中で特に難しさを感じるのは患者さんとのコミュニケーションよりも、日本人スタッフとカンボジア人スタッフの文化や働き方の違いです。
仕事の進め方や意思決定の仕方が違うため、戸惑うこともたくさんありました。

それでも、カンボジアの文化や社会背景を日本人スタッフに伝えたり、反対に日本の働き方を自分自身が学んだりしながら、少しずつ相互理解を深めるようにしています。
文化の違いがあって大変なことも多いですが、その分、学べることも本当に多いと感じています。
事務や管理のスキルだけでなく、異文化の中で働く力も身につき、同僚や患者さんを支えたいという気持ちが日々の大きなモチベーションになっています。

一番やりがいを感じるのは行く場所がなく困っている患者さんを適切な支援につなぐことができたときです。
私自身は治療を行うわけではありませんが、誰かの不安が少しでも軽くなり、安心につながる一歩を支えられたと感じられる瞬間がこの仕事を続ける大きな支えになっています。

日常の業務では文化の違いを意識しながらできるだけ丁寧に説明や調整を行うことです。
問題が起きたときには感情的にならず、状況を整理して伝えることを心がけています。

文化は違っても、患者さんを支えたいという思いは同じです。
相互理解を深めながら、より多くの人に寄り添える職場にしていきたいと思っています。

彼女の言葉からは、文化や立場の違いを越えて、人を支えたいという変わらない思いで現場に立ち続けている姿が浮かび上がります。

「治療の前にある困難」を取り除く存在として

事務スタッフは医療と患者さんをつなぐ「最初の窓口」です。
経済的な不安を和らげ、生活の基盤を整え、安心して通院できる環境をつくること。
その一つひとつの積み重ねが「医療を支えるもう一つの力」となっています。
事務スタッフの存在は患者さんが医療にたどり着くまでの道のりを支える、欠かすことのできない存在です。

【カンボジア医療活動】カンボジア人事務スタッフが見た医療現場 ー 非医療スタッフが支える「もう一つの医療」ー

今後も行政や地域と連携しながら「治療の手前にある困難」を取り除き、誰もが医療にアクセスできる社会の実現に向けて、取り組みは続いていきます。

長期学生インターン 伊藤大輝

▼カンボジアでのプロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/tag/cambodia/

▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動

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