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【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

up 2025.12.10

【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

ティアリスくんは、右足に発生した未分化多形肉腫という、筋肉などのやわらかい組織にできるがんの一種と闘う16歳の少年です。
進行が早いため、早期の治療がとても重要な病気です。

はにかんだ笑顔と穏やかな眼差しが印象的で、病院では兄のような存在として、小さな子どもたちから慕われています。

7月末、脚の痛みと腫れを訴えてジャパンハートこども医療センターにやってきたティアリスくん。
当院で詳しい検査を行った結果、悪性腫瘍であり、命を守るためには右足の切断が必要であることがわかりました。

その現実は彼と家族にとって、受け止めきれないほど大きく、重たいものでした。
がんだとわかったその日から、未来への願いまで。
本レポートでは、彼のストーリーをお伝えします。

異変を感じた日、「ただ、痛くてつらかった」

ティアリスくんはお母さんと弟とともに家計の事情から叔母さんの家で生活していました。
中学校を卒業してからは家族を支えるために工場で働いていました。

最初の異変があったのはそんな日々の中、仕事中のことです。
右足の筋肉が突然こわばり、強い痛みが走ったといいます。
自宅に戻っても腫れは引かず、日を追うごとに右足は大きくなっていきました。

近くのクリニックでは骨の問題が疑われ、生体組織検査を勧められたものの、経済的な理由から検査を受けることができませんでした。

「悲しかった。仕事にも行けなかったし、どうしたらいいのか分からなかった。」

16歳の少年の口からこぼれたその言葉は静かで淡々としていましたが、その裏に隠された恐怖と無力感は計り知れません。

やがて叔母さんが、「ジャパンハートこども医療センターなら治療を受けられるかもしれない」と、知人やSNSの情報から知り、ティアリスくんを連れてきてくれました。
こうして彼は「治療へつながる扉」と出会うことになります。

がんと診断された日、切断という選択、「痛みから解放されるなら」

腫瘍が悪性だと告げられたとき、「普段通りにしていたけれど、心の中では治らないかもしれないと心配だった」とティアリスくんは静かに語ります。

そしてお母さんは、大きな不安に押しつぶされそうだったといいます。

「お金もなく、どう治せばいいのかも分からない。子どもの病気が治らないかもしれないと考えると、胸が苦しかった。」

それでも医療者が丁寧に説明をして寄り添ってくれたことで、その不安の中に希望の灯りが少しだけともりました。

【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

10月に手術という現実を前にしたとき、彼の胸を占めていたのは足を失うことへの“恐怖”よりも今抱えている“痛み”でした。

「つらさがありすぎて、切った方が楽になれると思った」

長い間続いた耐えがたい痛みに比べれば、足を失うという決断でさえ、彼には“救い”に見えたのかもしれません。
また、お母さんも息子を苦しめる痛みから解放してあげたいという強い思いで前を向いていました。

そして、どんなに辛い治療中でも彼を支え続けたのは「病気を治したい」というひとつの思いでした。
お母さんも同じ気持ちを抱いていました。

「子どもを元気にしてほしい。治してほしい。そう願いながら、医療者の支えに感謝の気持ちを抱いています。」

病院で見せる“お兄ちゃん”の顔

【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

手術後、痛みが落ち着き、ようやく動けるようになったティアリスくん。
その頃、彼にはひとつの願いがありました。

「大部屋に入りたい」

実は入院当初、腫瘍の大きさと深刻さから、彼はしばらく一人部屋で過ごしていました。
静かで誰とも話せない時間は彼にとって長く、寂しいものでした。

そして切断手術を経て体調が安定した頃、ようやくその願いが叶い、大部屋へ。
大部屋に移ってからのティアリスくんはまるで別人のように明るくなりました。

車椅子で病棟内をゆっくりと進みながら、「誰かと話せるかな」「困っている子はいないかな」と自然と人を求めて動きます。

【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

小さな子どもたちの様子を見に行き、声をかけ、遊び、泣いている子がいれば、静かに寄り添う。
ICUでも不安そうな子のそばに座り、そっと励ましてあげることもあります。

ティアリスくんはどんな状況でも静かに見守り、必要なときはそっと手を差し伸べるような優しさの持ち主です。

他の年上の子が小さな子にちょっかいを出していると、そばに寄って「大丈夫だよ」と手を添え、泣き止むまでそっと励ましてあげる。そんな姿を見かけるのは日常的です。

気づけば、年下の子どもたちは彼を自然と頼るようになっていました。

未来への願い、「誰かの力になれる人」に

ティアリスくんには退院したら真っ先に会いたい人がいます。
家族の一員のように寄り添い、苦しい時も支え続けてくれた叔母さんです。
彼にとって、かけがえのない大切な存在です。

そして、ティアリスくんは静かに、けれど力強く自分の夢を語ってくれました。

「また学校に戻って、将来は看護師になりたい。」

入院中、いつも優しく寄り添い続けてくれた看護師さんたちの姿を見て、「今度は、自分が困っている患者さんを助けたい」
そう思うようになったのです。

【カンボジア医療活動】小児がん患者story 16歳の少年が失われた痛みの先で見つけた「誰かを支えたい」という強さ。

お母さんもその挑戦を力強く後押ししています。

「学校に戻って、中学校も高校も行って、自分の未来を作ってほしい。」

右足を失うという大きな決断をした16歳の少年。
それでも彼は人を想い、励まし、支え続ける強さを失いませんでした。
困難の中でも希望を抱き、前へ進むことを選んだその勇敢さはこれからの人生において、確かな光となっていくはずです。

ティアリスくんは今、 新しい未来へ向かって一歩を踏み出しています。
いつか看護師としてたくさんの子どもたちを笑顔で見守る日が訪れますように。
私たちはこれからも彼の歩みをずっと見守り続けていきます。

長期学生インターン 梅木真希

▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートアジア小児医療センター

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