新病院開院まで残り2ヶ月。開院に向けて日々努力を重ねてきたスタッフたちの医療と向き合う姿勢は、ますます揺るぎないものとなっています。
その決意をさらに後押ししたのが、2025年8月5日から7日にかけてジャパンハート子ども医療センターで開催された「小児蘇生コース」でした。
今年11月に開院を控える新病院は最大200床を誇る小児医療に特化した病院です。
そこで必要となるのは重症小児患者や突然の状態悪化に直面した際、子どもの命を守るために判断し、行動する力です。
さらに、現在活動を続けるジャパンハート子ども医療センターでも新病院の開院により小児科の常駐がなくなるため、現場に残る医師や看護師が自ら初期対応を行う力がこれまで以上に求められるようになります。
小児蘇生コース開講
こうした背景のもと、聖マリアンナ医科大学の清水教授や東京都立小児医療センターの水野医師、木下医師らを講師に迎え、小児蘇生コースが開催されました。
インストラクターコース(プロバイダーコースを行うための指導者を養成するコース)に8名、プロバイダーコース(小児の蘇生処置について学ぶコース)に13名、合計21名のスタッフが参加。
未来の医療を支える責任を胸に、それぞれが真剣に学びに臨みました。
インストラクターコースに参加したスタッフはまずプロバイダーコースを受講しました。
「呼吸状態が悪化した際の対応方法」や「循環が悪化した際の初期対応」など、蘇生時に欠かせない基本を実際の場面を想定したマネキンを使用したトレーニングを通して学びます。
また、事故予防や感染症を題材に仲間と議論しながら対応を考えるセッションも行われました。
さらにインストラクターコースでは知識をより効果的に共有する方法や心理的安全性を保ったコミュニケーション、指導法を学ぶ研修にも参加しました。
日本の専門家によるオンライン授業やグループディスカッションを通じて、考えを深める機会にもなりました。
インストラクターコースに参加したスタッフたちは緊張した面持ちで講義に臨みましたが、時間が経つにつれ仲間同士で積極的に意見を交わし、一つひとつの内容に真剣に耳を傾ける姿が見られました。
学ぶ立場から教える立場へ
迎えた最終日。インストラクターコースを受けたスタッフがいよいよ講師役となり、プロバイダーコースに参加する仲間に学んだことを伝える立場を経験しました。
最初は「自分にできるだろうか」という不安を抱える姿もありました。
しかし、声を出して学んだ知識を言葉にして伝え始めると、少しずつ自信が芽生えていきます。
質問に真摯に答えようとする姿勢や分かりやすく説明するために工夫を凝らす姿勢、その一つひとつにこの2日間で培った学びの積み重ねが表れていました。
また、仲間たちもただ受け身で聞くだけではなく、積極的に質問や意見を交わし、学びの場を共に作り上げていきます。
そこには「教える側」と「学ぶ側」の境界を越えた、双方向の活気に満ちた空気が広がっていました。
不安を抱えながらも挑戦し、仲間と協力しながら知識を共有する過程は単なるスキル習得にとどまらず、互いを信じ、支え合う力を強めていきました。
最終的に、スタッフ一人ひとりが「自分もチームの一員として貢献できる」という確かな実感を手にし、全員が「チームとして成長する力」を体現していたのです。
挑戦と成長を胸に、新病院へ
実際にインストラクターコースに参加したラクスメイ医師はこう語ります。
小児蘇生コースを通じて、「大人はただ教えられるだけでは学べない。自分が学ぶ理由や利点を理解してこそ、知識や技術が身につく」ということに気づきました。
研修を通じて小児救急に対する自信が深まり、将来的にインストラクターとして活動できる可能性も感じました。
また、日本人講師からは小道具の準備や学習環境の整え方を学び、参加者が理解を共有し、議論を深められるように参加を引き出す技術もさらに磨くことができました。
今後は新しい病院でセミナーやワークショップを通じて後輩スタッフに知識や経験を伝え、誰もが緊急時に自分の役割を理解し、効果的かつ効率的に患者を救える体制づくりに貢献していきたいと考えています。
彼の言葉からは、新病院で仲間と学びを分かち合いながら共に成長していこうとする前向きな気持ちが伝わってきました。
また、今回講師としてお越しくださった水野医師からもコメントをいただきました。
今回、清水直樹先生のご尽力で、昨年に現場で共に活動したカンボジアの仲間とこのような素晴らしいコースを開催する機会をいただき、とても嬉しく思っています。
コースにおけるカンボジア人スタッフの熱意とモチベーションの高さは素晴らしく、『救いたかった命』に出会い、悔しい思いをした経験があるからこそ生まれる切実な思いが、受講する姿から伝わってきました。
今後、カンボジア人スタッフがインストラクターとして、コースの内容を自国の文化により適応させて継続していくことになるでしょう。カンボジア内の他の施設の医療者を巻き込んだ開催も検討できるかもしれません。
今回のコースが未来のカンボジア小児医療をより良くするための小さな波紋のひとつになれたら、とても嬉しく思います。
新病院開院まで残り約2ヶ月。新病院で活動を始めるスタッフも、現病院で引き続き活動を続けるスタッフも、それぞれの覚悟を胸に医療と向き合っています。
スタッフ一人ひとりの挑戦と成長が子どもたちの未来を守る力となります。
その歩みをこれからも多くの方々に見守っていただければ幸いです。
ジャパンハートカンボジア 髙橋明日香
▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動