ジャパンハートこども医療センターには、現在3人の薬剤師が勤務しています。いずれもカンボジア人で、それぞれが協力しながら日々の薬剤業務にあたっています。小児病棟や成人病棟、外来、手術室まで、薬剤師が関わる現場は多岐にわたります。
今回は、現地で働くロッタ薬剤師へのインタビューと、5日間ボランティアとして活動した日本人の石田薬剤師の体験を通じて、この病院における薬剤師の役割ややりがい、そしてここでの活動の可能性についてご紹介します。
毎日の薬が、子どもたちの「今」を支える
ロッタ薬剤師がこの病院で働き始めてから約5か月が経ちます。彼の1日は朝のミーティングからスタートします。成人病棟、小児病棟、外来、手術室など各部門から届く薬の在庫リストをもとにデータベースを更新し、処方箋に沿って薬を準備。抗がん剤の調合や薬品・医療材料の補充など、日々の業務は多岐にわたります。さらに、月に一度はオンラインで医薬品の買い出しも行っています。
〈ロッタ薬剤師の1日のスケジュール〉
「以前、がんの治療を受けていた子が、少しずつ元気を取り戻していくのを見たんです。あの子の回復に、私たちが用意した薬が関われたと思うと、本当に嬉しかったです。」
彼は、やりがいをこう語ってくれました。
この病院ならではの特徴は、薬剤師が医療現場の“すぐそば”にいることです。薬剤部は小児病棟のナースステーションのすぐ隣にあり、看護師や子どもたちとのやりとりが、日常的に生まれています。実際、ロッタさんがソファに座って子どもたちとおしゃべりをしたり、ふざけ合いながらカメラで写真を撮り合う様子も、しばしば見かけます。
ここでは、薬剤師が“処方のその先”に自然と目を向けることができる環境があります。
そして何より印象的だったのは、薬剤師が医師や看護師、スタッフ、そして患者さんたちと“同じ輪の中”にいることでした。薬剤師もまた、子どもたちを支える“チーム”の一員であり、病院という“ファミリー”の一人として、あたたかく自然に溶け込んでいます。
現場に入ってわかる、日本との違いと活かせる自分
そんな薬剤部に6月上旬、5日間の短期ボランティアとして参加したのが、薬剤師2年目の石田薬剤師です。
「もっと広い世界を見てみたい。日本の医療を外から見つめ直したい」
そんな思いから参加を決めたそうです。現地で石田薬剤師が担当したのは、処方箋の確認や抗がん剤の調製、回診への同行などでした。基本的な業務内容は日本と大きく変わらず、2年目の自分でも活躍できる場を見つけられたと話してくれました。
一方で、日本とは異なる点もいくつか見えてきたと言います。たとえば、薬品の名称。日本で「カロナール」と呼ばれる解熱鎮痛薬は、ここでは「パラセタモール」と呼ばれています。寄付で届いた“日本名”の薬は認識されづらく、棚の奥で使われずに残ってしまうこともあるそうです。また、カンボジアでは主に錠剤とシロップが使われており、粉薬はほとんど使われていないという点も印象的だったと話してくれました。日本の管理や運用の工夫が、ここでも活かせる余地がある、そう彼の目には映ったといいます。
言葉の壁は“協力”で越えられる
言語の違いはありますが、英語を完璧に話せる必要はありません。
実際に5日間の活動を行った石田薬剤師も、「クメール語はわからないし、英語もどの程度通じるのか不安だった」と話していましたが、現場では中学英語レベルの簡単な会話で十分にやり取りできたそうです。医療用語や専門的な単語については、必要に応じてインターネットで調べながら対応していたといいます。
カンボジア人同士の会話はクメール語、日本人同士の会話は日本語で行われますが、その間を橋渡しするような場面もありました。たとえば、石田薬剤師が日本人医師と話しているときに、ロッタさんから「あとで何を話していたか教えて」と頼まれ、後ほど英語で共有したことがあったそうです。逆に、クメール語での会話を英語で説明してもらうこともありました。
また、カンボジア人薬剤師たちは「日本ではこの処方をどうしているの?」と積極的に質問してくれたり、業務以外でもカフェでコーヒーを買ってきてくれたりと、親しみをもって関わろうとしてくれる姿勢がとても印象的だったといいます。
現地のスタッフたちは、たとえ拙い英語であっても、しっかりと受け取ろうとしてくれます。お互いに英語を“第二言語”として使っているからこそ、完璧な言葉よりも、伝え合おうとする気持ちが何よりも大切にされている――そんなふうに感じたそうです。
誰かのすぐそばで、薬剤師としてできること
この病院では、薬剤師は子どもたちに最も近い存在のひとりです。
目の前の子が、少しずつ食べられるようになる。元気に話しかけてくれるようになる。
そんな日々の変化を、同じ空間で肌で感じながら働くことができます。それは、薬剤師としての喜びを、まっすぐに感じられる環境です。
石田薬剤師の滞在を経て、現地の薬剤師からは「とても丁寧に仕事をしてくれて、学びが多かった。またぜひ一緒に働きたい」という声もあがりました。ここには、お互いに学び合い、高め合える関係があります。
もしあなたが「いつか海外で活動してみたい」と思っているなら、ここはきっと、その一歩を踏み出せる場所になるはずです。たとえ経験が浅くても、日本で積み重ねてきた知識は、確実にあなたの力になります。そして何より、子どもたちのすぐそばで薬のチカラを届ける日々は、あなた自身にとっても、きっとかけがえのない経験になるでしょう。
▼カンボジアで活動する日本人薬剤師を募集中▼
https://japanvolunteer.org/volunteer/co-medical/
長期学生インターン 笹木澪莉
▼カンボジアでのプロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/tag/cambodia/
▼プロジェクトの詳細はこちらから
カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動