カンボジア国内でも高度な治療を提供するジャパンハートこども医療センター。
その中核を担い、長年にわたり現場を支えてきたのが、院長の神白医師です。
小児がんをはじめとする命に関わる治療に日々向き合うこの場所で、彼女の存在は医療の質だけでなく、チーム全体の在り方にも大きな影響を与えてきました。
神白医師へのインタビュー、そして長年にわたり彼女とともに歩んできたカンボジア人スタッフへのインタビューを通して、彼女の人柄と現場で築かれてきた深い信頼関係を紐解いていきます。
カンボジアとの出会い
神白医師がカンボジアを初めて訪れたのは2009年。ジャパンハートが現地に拠点を広げるための調査の時でした。
当時、すでに現地で活動に参加していた日本人看護師から「一緒にやりませんか」と声をかけられたことが、すべての始まりだったと言います。
その出会いから約7年、日本で仕事に追われる日々の合間を縫って、ジャパンハートの活動に参加し続けました。
しかし彼女の中にはずっと、「いつかジャパンハートの現場に戻って、より深く関わりたい」という思いがありました。
そんな彼女の転機は2016年。カンボジアでの病院オープンをきっかけにジャパンハートでの活動一本に絞る決断をします。
「求められることに応えていたら、いつの間にか今に至っていた」と語る神白医師。
その歩みの根底には、変わらぬ信念があります。
「関わるすべての人が、“ここに来てよかった”と思える場所でありたい。それは患者さんだけでなく、スタッフに対しても同じです」
医師として、また病院全体の空気をつくる存在として、日々の挨拶や声かけを大切にしている神白医師。その姿勢は、現地スタッフ一人ひとりに深く影響を与えています。
技と心を教えてくれた人 ― 神白医師を語る3人の声
変わらず現場に立ち続けるその姿に、今日も私たちは学び続けています。
神白医師はただ教えるのではなく、実践の中で「示す」人。
ここでは、今もその背中を見ながら働く3人が院長への思いを語ります。
シーパン医師
大学卒業後、最初の勤務先がこの病院でした。外国人医師と働くのも初めてで、当初はとても緊張していました。でも、神白先生の丁寧で柔軟なご指導のおかげで、外来診療や感染症、画像診断など、多くのことを学びました。先生は「まずやらせて、評価する」スタイルで、相談もしやすい存在です。患者さんやご家族への対応に困ったときも、いつもそばで支えてくださいました。COVID-19の対応でも、的確な判断で感染拡大を最小限に抑えてくださいました。先生がいないと病院全体の判断力や連携力に影響が出るほど、私たちにとって欠かせない存在です。
リダ医師
2019年からジャパンハートに勤務し、診療を担当しています。初めてお会いしたとき、先生はお若く見えましたが、その仕事ぶりは非常に的確で、すぐに「素晴らしい医師だ」と感じました。特に印象的なのは、どんな相手にも誠意を持って丁寧に接する姿勢です。先生は医師であると同時に教育者でもあり、病院の課題にも自ら進んで取り組む姿に、何度も助けられてきました。現在では外来機能も整備され、より働きやすい環境となり、私たち若手にとっての模範であり続けています。
ヴィチア看護師
約9年前からジャパンハートで働き始め、看護師としてさまざまな分野を経験してきました。神白先生と初めてお会いした時、「落ち着いていて、覚悟を持っている人だ」と感じました。患者さんやスタッフへの思いやり、困難な状況でも人としての優しさを忘れない姿勢に心を打たれました。「病気を治すだけでなく、人をケアするのです」という先生の言葉が、今も心に残っています。母のような包容力があり、リーダーとして知恵と模範を示してくださる先生は、私の医療者としてのモデルです。
3人が共通して語るのは、神白先生の「人としての温かさ」と「現場で共に学ぶ教育者としての姿勢」への深い尊敬です。単に技術を教えるのではなく、日々の診療の中で背中を見せ、時に厳しく、時に優しく、スタッフ一人ひとりの成長を支えています。
ハートで繋ぐ次世代の医療
神白医師が日頃から伝えているのは、医療者としての技術だけでなく、「人としてどう在るべきか」という姿勢です。
カンボジアでは医療者と患者の間に強い上下関係がある現状に対し、院長は次のように語ります。
「ふんぞり返って偉そうにする人もいます。でも、そうではなく、やさしく、わかりやすく、同じ目線で説明する姿勢を大切にしてほしいのです。」
また、現地の医師たちには「自ら学ぶ姿勢」や「現場をより良くしようとする力」を育んでほしいと願い、学ぶ機会が限られた中でも意欲を持ち続けられるよう、自らの背中で示し続けています。
「カンボジア人スタッフにはやさしさと思いやり、そして勤勉に学ぶ姿勢――ジャパンハートの素晴らしい精神を身につけてほしい。そして、そこで得たものを他の地域にも還元していってほしい。最終的にはカンボジア人スタッフ自身が医療を担っていく社会。それが私の目指す未来です。」
神白医師の存在は現地スタッフにとって欠かせない成長の支えであり、病院全体の医療の質を高める原動力となっています。
その地道な積み重ねは、確実にカンボジア医療の進化へとつながっています。
ジャパンハートの「ハート」は、今、確実に次の世代へと引き継がれつつあるのです。
長期学生インターン 小野澤真由
▼カンボジアでのプロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/tag/cambodia/
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動