はじめに:現地病院での活動
ジャパンハートは現在、カンボジアの現地病院で周産期医療の技術向上に取り組んでいます。
私は医療の専門知識こそありませんが、インターンとして現地の医療従事者や患者さん、日本から来た医療ボランティアの方々と関わる中で、さまざまな貴重な経験を積んできました。
今回特に「命の誕生」というかけがえのない瞬間に立ち会う機会をいただき、その現場を目の当たりにするなかで、文化や価値観の違いが医療に与える影響を強く実感しました。
そこで、現地病院の産科で活動されているボランティア助産師・三澤さんにお話を伺い、現地の医療現場への理解をさらに深めることができました。
病院の産科で見た光景
現地病院では24時間体制の柔軟なシフトで医療が提供されています。
日本では陣痛中のケアは家族や助産師が一緒に寄り添い、出産に家族が立ち会うことも一般的ですが、カンボジアでは少し事情が異なります。
入院中の患者さんには家族の付き添いが必須とされ、陣痛中のケアは夫、母、姉妹など、複数人の家族によって担われます。
また、印象的だったのは「産後のケア」の違いです。
カンボジアでは産後の褥婦(じょくふ:出産後の女性)や赤ちゃんの体を温めることがとても大切にされています。
帽子やタオル、足袋を使い、徹底的に体を温める様子は、南国とは思えない光景で驚きを覚えました。
一方、日本では産後すぐに集団での育児指導が始まり、病院のプログラムに沿って褥婦の1日のスケジュールが組まれることが一般的です。
カンボジアでは退院時の指導以外は基本的に個別対応となります。褥婦はベッドで静かに過ごし、授乳以外の赤ちゃんのお世話は家族が担っています。
こうした違いに触れたとき、私は「どちらが優れている」といった単純な比較では語れないそれぞれの素晴らしさを感じました。
日本では「医療的な管理のもとで安心・安全に出産を迎える」ことが重視され、助産師さんとのつながりが大きな支えとなっています。
一方、カンボジアでは「家族の存在があってこその出産」という家族との強いつながりが感じられます。
関係性の形は異なっていても、妊婦さんにとって「人と人とのつながりが力になる」という本質はどちらの国でも変わらないのだと実感しました。
現地の助産師の姿勢と、そこにある想い
日本の助産師は「自然なお産」や「産婦の主体性を尊重するお産」を大切にし、できるだけ母体への負担を少なくする対応を心がけています。
一方、カンボジアの助産師さんたちは個人差はあるものの「赤ちゃんを早く安全に取り上げること」を重視しており、自ら切開や縫合を行う場面も多く見られます。
そのため、出産時にできる傷の大きさについては、日本ほど重視されないことが多いそうです。
こうした価値観の違いは、時に現場で意見の衝突につながる事もあります。
患者さんへの接し方やケアの方法ひとつをとっても、そこにはそれぞれの国の文化や医療現場の現実が色濃く反映されているのだと実感しました。
三澤さんは、次のように話してくださいました。
「手段の違いで議論になることはあっても、『患者さんのために』という思い自体に違いはありません。
ただ、その前提が互いに共有されていないと、手段の違いばかりに焦点が当たってしまい、議論が建設的に進まなくなってしまいます。
最終的には『日本人とカンボジア人では価値観が違う』という結論だけに行き着いてしまいます。
だからこそ、『患者さんのため』という目的を共有したうえで、その手段を一緒に考えていきたいのです。」
自分自身の学びと、これから
今回の活動を通して、日本とカンボジアのお産に対する考え方や医療体制には大きな違いがあることを改めて実感しました。
帝王切開や新生児蘇生といった医療技術はまだ普及の途上にあり、医療制度や保険制度の整備も発展途上です。
さらに診療費の高騰や医療機器の誤用といった、命に直結するリスクも現場には存在しています。
しかしそれ以上に、家族と過ごす温かい時間などの文化にも触れ、技術だけでは医療は成り立たないのだということも学びました。
三澤さんが語ってくださった「誰も死なせないお産を実現したい」という思いを実現するには、医療技術の向上だけでは不十分です。
文化を理解し、現地の人たちと心を通わせ、共に歩む姿勢が欠かせないのだと実感しました。
私は医療者ではありません。けれど、現場を見て、声を聞き、自分なりに考える中で、「私にもできることがあるかもしれない」と感じるようになりました。
相手の文化や価値観を尊重しながら、必要な支援を探し続けること。
ときには立ち止まり、悩みながらも、「何を大切にするのか」を見失わないこと。
これらを胸に、今後も現地の声に耳を傾け、自分自身も成長し続けていきたいと思います。
長期学生インターン 小野澤真由
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カンボジア ジャパンハートこども医療センターでの医療活動