2025年3月28日に発生した未曾有の大地震から半年。
私たちの医療活動拠点であるワッチェ慈善病院のあるザガイン地域は震源地となったことから、他の被災地域に比べても甚大な被害を被り、ワッチェ病院も一部が崩落し医療活動の一部休止を余儀なくされました。
あまりの被害の大きさに「一体、この国はどうなってしまうんだろう…」という、とてつもない不安に襲われましたが、それでも発災翌日より1ヶ月間は災害緊急支援として、緊急医療物資支援・食糧及び生活物資支援・巡回診療の3つを中心に、そしてその後も災害復興支援として被災地域での巡回診療を継続してきました。
未曾有の大地震から半年、被災地の今
そこから半年が経過し、被災地の状況も様々に変化してきています。
また日本の方々からも「もうミャンマー大地震の事は全く報道されなくなったけど、実際のところどうなっているの?」というご心配の声を、多くの方々から頂いています。
ザガインは地理的にも最大都市ヤンゴンからも遠く、そして2021年の軍事クーデター以降の情勢不安によって治安的にも支援が届きにくい地域でもありました。
そんなザガイン地域ですが、復興に向けて少しずつ前に進んでいます。
多くの方々が目にしたであろう崩落したマンダレーとザガインを結ぶインワ鉄橋は落ちた橋桁がまだ残っていますが、それも少しずつ撤去され始めています。
崩落したインワ橋(左)2025年4月、(右)2025年8月
倒壊した建物に消防車が押し潰されていた消防署も、今は青空の元に消防車や救急車とコンテナハウスが並び、消防隊員たちの姿もあります。
ザガインの消防署(左)2025年4月、(右)2025年8月
一時は避難施設となっていた学校も、被災後2ヶ月となる6月初旬には新学期に合わせて学校も再開し、制服姿の学生たちの姿も戻り仮設校舎で授業が実施されています。
(左)2025年4月 避難所となった高等学校、(右)2025年8月 学校再開した高等学校
そしてザガインの市街地も損壊した家屋などの取り壊しや瓦礫の撤去などがほぼ完了し、トタン壁の向こうでは再建が始まっているところも一部あります。
そして街中には以前と同じように車やバイクが行き来し、市場には多くの野菜や食料品が山積みとなり、大きなカゴを抱えた人々で賑わっています。
地震の爪痕をところどころに残しつつも、被災地の人々は少しでも以前の日常を取り戻すべく前を向いて進んでいます。
復興への動きの一方で、厳しい現実も
このように被災地が復興に向けて少しずつ前に進んでいる一方で、まだまだ厳しい現実もあります。
倒壊した家屋の修復が進まず家に帰ることが出来ず、被災後まもなく半年となる今も簡易のビニールテントで生活を続けている人々もいます。
身寄りのない高齢の方々が多く、同じ集落の人々からのサポートを得ながら10数名ほどが共同生活を送ってるところもあります。
集落のリーダーに話を聞いてみると「みんな今は自分の家の修復に手一杯だけど、そこから出た資材をかき集めてたら、みんなで高齢の方々ために家を作る予定にしている」とのこと。
公的支援のないミャンマーでは非常時には地域住民がお互いに助け合うしかありません。
また地震による被害とは別に、被災地周辺での軍と民主派勢力との衝突も激化しており、情勢も少しずつ悪化しています。
情勢の悪化と大地震、二重の困難の中にあっても、被災地の共に手を取り合いながら人々は前を向き続けています。
「医療を止めない」ために、自分たちに出来ることをやり続ける
病棟の一部が崩落したワッチェ慈善病院では、被災当日は入院患者さんや近隣住民の手当てに奔走しました。
地震当日のワッチェ病院
そして翌日には入院患者さんたち全員を自宅に帰す手筈を終えると、被災後4日目となる4月1日からは、病院前の路上で外来診療を再開すると共に、被災地域での巡回診療をスタートさせました。
2025年4月 被災地域での巡回診療
そしてこの半年間で、5,000人以上の患者さんの診察を行いました。
また、ワッチェ病院では使用不能となった外来や手術室の補修を早急に進め、被災から2ヶ月後の6月2日には手術室の一部で手術を再開しました。
その後も補修を進め8月には外来も手術も全ての工事を終えました。
(左)地震直後の手術室、(右)2025年8月 改修後の手術室
そして静まり帰っていた病棟には、治療を受けにきた患者さんやご家族の姿が戻ってきました。
その中の1人、口唇裂という病気を持ったシャイン・リン・ゾウくん(2歳)は今年の3月、ワッチェ病院に入院して手術を待っている間に大地震に遭遇しました。
その時は手術を受けないまま一旦退院となりましたが、今回5ヶ月ぶりに手術を受けるためにワッチェにやって来ました。
「まさか入院中にあんな大地震に遭うなんて、あの時は初めての経験で本当にびっくりした。訳分からず息子を抱えて逃げたけど、患者も医療者もみんな無事で本当に良かった。そして思っていたよりも早く手術が受けられて嬉しい」と笑顔で話してくれたシャインくんのお母さん。
そうは言っても、情勢の良くない中を子どもを連れて病院まで何度も往復することはお母さんにとっても大変だったはずです。
それでもこうやって「子どもの病気をなんとか治したい」とやって来る患者さんたちがいます。
無事に手術を終えていよいよ退院の日、入院中もずっと遊んでいた大切なおもちゃを嬉しそうにカバンにしまうシャイン君の姿がありました。
その姿を見て「気を付けて帰ってね」と道中の安全を願わずにはいられません。
こうして私たちの活動の原点であるワッチェ病院での医療活動も、元の姿を取り戻りつつあります。
大地震から半年となる被災地
被災地の人々が懸命に前を向き、そして表面的には少しずつ復興しているように見えても、災害と情勢悪化のダブルパンチで人々の経済的そして精神的な負担は続いています。
私たちはそんな現地の人々に寄り添いつつ、1人でも多くの患者さんを救うため、どんな困難な状況にあっても「医療を止めない」という強い決意のもとで活動を続けています。
▼ ミャンマープロジェクトの詳細はこちらから
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