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激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【後編】

up 2023.06.22

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

2021年のクーデター以降、混乱が続くミャンマーの医療現場。
ジャパンハートは今回、約3年ぶりに最大都市・ヤンゴンにある小児専門病院で手術活動を行いました。
そこで私たちが目にしたのは、治療の機会を求めてやってくる大勢の患者の姿でした。

クーデター後に医療者による大規模なボイコットが発生したミャンマーでは、今も診療を続ける一部の医療機関に患者が殺到しています。
現場の状況は私が想像していた以上に悲惨で、患者が溢れ、以前は救えていたはずの命が救えなくなっている状況に言葉を失いました。

今回お届けする【後編】では、ミャンマーの医療現場の今をお伝えします。

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【前編】はこちらから
(カンボジア広報・藤田陽子)

手術待ち患者 「腫瘍」だけで60人超

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【入院病棟の様子】

今回、私たちが手術活動を行ったのはヤンゴンにある小児専門病院。

この病院の医療者たちはミャンマーの小児医療を牽引する存在で、ジャパンハートも合同で専門医の育成などに取り組んできましたが、約3年ぶりに目にした光景は以前とは全く異なるものでした。

廊下には子どもを抱いた人が溢れかえり、入院病棟では1つのベッドに2人の患者の姿。
節電のためか院内は暗く、ICU=集中治療室を含む多くの施設が閉鎖されていました。

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【閉鎖されたICU=集中治療室】

病院の担当者の説明では、医師や看護師をはじめとする医療スタッフは、クーデター前の約2割。以前は年間約6000件の手術を行っていましたが、今は救急患者を中心に年間約1500件が限界だということです。

手術を待つ患者の数は、「腫瘍」だけで64人。
ほかの疾患については待機リストの作成すら出来ていないとのことでした。

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【入院患者の1人】

多くの医療機関が機能不全に陥るなかで、この病院にはミャンマー全土から患者が殺到し、ボイコットに参加しなかったり、さまざまな葛藤の末に医療現場に戻ったりしたごく少数の医療者が、昼夜を問わず治療にあたる現状がありました。

〝肝臓のスペシャリスト“が手術を実施

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【手術を行う猪股医師】

今回の手術活動は、日本から小児外科医を招いて実施しました。

緊迫した情勢のなかでも、「技術が役立つのであれば」と私たちの要請に応えてくださったのは、福岡医療短期大学長で九州大学名誉教授の田口智章医師と、熊本労災病院院長で熊本大学名誉教授の猪股裕紀洋医師。

3日間の活動中、乳児の胆道閉鎖症など計4件の手術のほか、田口医師の医療チームが以前に生体肝移植手術を実施した患者3人の診察も行うなど、時間を最大限に使って活動してくださいました。

お2人は小児外科のなかでも肝臓治療のスペシャリストで、現地の医療者たちも少しでも技術を学び取ろうと、食い入るように手術の様子を見つめていました。

次々に来る患者 救える命も救えない現状

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【CT画像を確認する田口医師(中央)と猪股医師(右)】

それでも、わずか3日間の活動では、出来ないことも数多くありました。

1件目の手術を終えた時、現地のスタッフが「肝芽腫の疑いがある子どもが来た」と検査データを持って手術病棟に入ってきました。肝臓治療のスペシャリストである田口医師と猪股医師の見解を聞こうと駆け込んできたようです。

7歳の男の子で、「肝芽腫」という肝臓のがんとの診断を受けていました。
既に治療は始めているものの手術の見通しが立たず、通常よりも長い期間、抗がん剤治療を続けているということでした。

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【急きょ超音波検査を実施】

「手術すれば腫瘍を摘出できる」。
急きょ、その場で超音波(エコー)検査を実施したところ数センチの腫瘍が確認され、残りの日程でなんとか手術が出来ないか調整が行われました。

しかし、抗がん剤治療を受けた直後であることなど本人の体調面を考慮し、結果的にはやむを得ず見送ることになりました。

激動のミャンマーで続ける医療活動 ~日本人スタッフが見た現地の今~【

【肝芽腫疑いの患者とその母親】

超音波検査の後、「ようやく手術を受けられるんだ」と喜ぶ親子の姿。
私はミャンマーを離れた今も、2人の弾けるような笑顔が頭から離れません。

今、ミャンマーには、この男の子のようにいつ来るか分からない手術の順番を待つ人が数多くいます。そして、医療機関に辿り着くことすら出来ず、人知れず命を落としている人も大勢いるはずです。

「ミャンマーの未来のために」と命がけでボイコットを続ける医療者たち。
「目の前の患者を見捨てられない」と葛藤の末に現場に戻った医療者たち。

先の見えない暗いトンネルの中にいるような状況ですが、私たちはミャンマーで活動を続ける医療団体として、出来ることを模索し続けたいと思います。

藤田陽子 カンボジア広報
カンボジアスタッフ 藤田

2023年4月からカンボジアを拠点に広報として活動している藤田です。
大学卒業後は記者として報道機関に勤めていましたが、支援を必要とする人々に寄り添う仕事がしたいとジャパンハートに入りました。ジャパンハートに関わる多くの人の声をどんどん伝えていきます!


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