活動レポート

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カンボジアで強く生きる患者さん
up 2020.06.18

医療の質がまだ低いことや、保険制度が整っていないこのカンボジアでは、患者さん自身が自分の治療を選択し、治療を受けるために努力する必要があります。

例えば、輸血が必要になった場合、誰か家族や友人が血液センターに献血をしに行き、献血した人の数だけ輸血をもらうことができる、物々交換の仕組みがあるために、親戚中に声をかけて人を集め日程を調整して首都プノンペンに行くという過程があります。薬代が払えなければ、どんなに必要な薬も投与してもらえません。

そんなカンボジアの現状の中で強く生き抜いて、命拾いした患者さんがいます。
患者はまだ若く40代の女性で、付き添うのは笑顔が素敵な中学生くらいの娘さん。
足先が壊死したその患者さんは、糖尿病もあり、毎日の傷の処置と血糖値のコントロールで経過を見ていました。

看護師 ボランティア カンボジアで強く生きる患者さん

高い血糖値を強力に下げるための治療は逆に低血糖になる可能性もあり、薬剤や資材が十分でないこの環境も相まって、ひやひやする毎日でした。血糖値の調整も進む中、足先の傷はよくならず感染が広がる一方。感染が足だけでなく全身に広がる可能性もありました。私たちは患者さんにひとつのことを告げます。

「足先の切断が必要になると思います」

普通ならこの言葉を患者さんに伝えると、多くの患者さんはもちろん悩み決断までに時間を要します。自分の体の一部を失うので当たり前のことです。

しかしこのお母さんの決断はすぐでした。
「はいします」

二つ返事で切断を決心しました。
こんなに決断が早い人は、初めてでした。その理由をお母さんに問うてはいませんが、おそらく、たとえ自分の足の自由がなくなっても、家族のため生きないといけないのです。横にいるいつも笑顔の娘さんが私にそう思わせてくれました。
その返事を聞いて私たちもみんなですぐ調整を始めます。コロナウイルスの影響もあり、足の切断ができる医師は私たちの病院にいませんでした。ほかのNGOの病院にコンサルテーションし、手術だけは無料で行ってくれるとのことで(入院費は1日20ドルかかる)、その病院に行くまでの移動手段もお金がかからないように調整して、あっという間に転院と手術が決定しました。

朝、救急車に乗るとき、術後落ち着いたらうちの病院に帰ってきてほしいと伝えたく、その通訳のために中堅カンボジア人看護師に声をかけると

「もう私が伝えた、帰ってくるほうが患者にとっていいと思ったから」

と頼もしい一言が返ってきました。
本当に患者さんの身体的、精神的、経済的問題のすべてを理解し伝えているからこそ、その中堅ナースが本気で伝えた一言だと思います。

そして本当に驚かされたのは、朝に転院したお母さんが切断の手術を終え、お昼の2時ごろトゥクトゥクに乗って帰ってきたのです。これにはさすがにカンボジア人スタッフもびっくりです。手術は無料でしたが、入院費もかかる。ここがいい、この病院で治療を受けたいとその日のうちに帰ってきてくれました。

戻ってきたあとも傷の感染がコントロールできなければもう一度切断、そんなことがみんなの頭をよぎりながら、力を総動員しての治療が続きます。

看護師 ボランティア カンボジアで強く生きる患者さん

医療者だけではないです。松葉杖を買うお金がなかったので、お父さんがたった1日で竹で作ってしまいました。その松葉杖が病院のツルツルした床でも安全に使えるように、施設係のカンボジア人スタッフが余ったゴムチューブを使って滑らないようにしてくれました。掃除のおばちゃんも時間を見つけてはその患者さんのところに行き話していた姿もとても印象的でした。約2カ月の治療の末、先日無事に退院することができました。入院当初、表情が硬くあまりしゃべらなかった患者さんが最後は素敵な笑顔で家に帰っていってくれました。

思い返すと、すべてはあのお母さん自身が生きなければとすぐ切断を決めたその強く生きる気持ちが、みんなを巻き込み、回復へと向かわせたと思います。

カンボジアの家族は日本以上に助けあって生きています。家族の存在をとても大事にします。だからこそ私は、いつも患者さんを病院に来た時より絶対に元気な状態で家に帰すことをとても意識しています。言葉では当たり前で簡単な表現なのですが、それをここカンボジアで実現するには周到な準備、実施が必要です。あとはその思いの強さも必要かなと思います。特にいろいろと不器用な私は、常にアンテナを張って集中力を高めておくことを意識していないと、うまくいかないことが多いです。

今回、私はこのお母さんの強く生きる気持ちからたくさんのことを再認識することができました。そしてこのお母さんの回復は、ケアにあたったみんなの学びとなり、喜びに直結していました。
このお母さんに心から感謝するとともに、また一人でも多くの患者さんの小さな力になれればと思います。

看護師 ボランティア カンボジアで強く生きる患者さん

ジャパンハートこども医療センター看護師 福田麗那

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