2025年7月22日〜26日、ジャパンハートこども医療センターにて、最高顧問・吉岡秀人による「吉岡ミッション」が実施されました。
5日間という短期間の中で、小児がん4件を含む合計26件の手術を実施。
現場では、限られた時間の中でも「命を救う」という目標に向けて、多くのスタッフや協力者が連携し、準備と実行に全力を注ぎました。本レポートでは、1件の手術の裏にどれほど多くの人が関わり、どのような準備と連携がなされているのか、チーム医療の実際をご紹介します。
「ミッション」とは:限られた時間で命を救う医療活動
始めに、「ミッション」について簡単にご説明します。「ミッション」とは、短期間で集中的に行われる手術活動を指します。最高顧問の吉岡秀人は、月に1度のペースでカンボジアを訪れ、「吉岡ミッション」を実施しています。
「連携による最適な治療方針の構築
ジャパンハートこども医療センターでは、日本の小児科医と現地チームがZoomを通じてつながり、2週間に1度の定期カンファレンスを実施しています。
腫瘍の大きさや画像所見、治療経過など、あらゆる情報をもとに「次に打つべき手」を議論。現地医師と日本にいる医師とで意見を交わします。このプロセスによって、治療方針は一方的に決められるのではなく、複数の専門的視点から検討されていきます。
手術の有無、抗がん剤の内容とタイミング、それぞれの子どもにとっての「最善の道」を探る協議が重ねられています。
また、術前カンファレンスでは、腫瘍の位置や画像診断、これまでの経過、術式の方針などがスライドで共有され、執刀医、現地医師、看護師、日本人ボランティアが一堂に会して意見を交わします。治療方針を明確にし、全員が同じイメージを持って本番に臨むための重要な場であり、「ひとつの命に、みんなで向き合う」姿勢が形となった時間でもあります。
モニーチャンの症例:ひとつの手術の背景にある「連携」
今回のミッションの中で印象的だったのが、3歳の女の子・モニーチャンの症例です。
2024年6月ごろ、臀部の腫れが見つかり、タイの病院でCT検査と生検を受け、腫瘍が判明。現地で手術と7サイクルの抗がん剤治療を受けたものの再発が確認され、2025年5月に当院を訪れました。腫瘍の大きさは約2×2cm。2サイクルの抗がん剤治療を経て、今回のミッションで手術を受けることになりました。治療方針はZoomカンファレンスを通じて日本の医師と継続的に協議。日々の診療、術前準備、意思決定…その一つひとつが国を越えてつながり、多くの人の判断と連携の上に手術が成り立っていました。
手術当日。モニーチャンはスマートフォンで動画を見ながら、ベッドの上で静かに過ごしていました。着替えのときに「ブルッ」と体を震わせる姿に、思わず周囲が笑みをこぼす場面も。やがて入室の時間が近づくと、お母さんにしっかりと抱きつきながら、手術室へと向かいます。
オペ着に着替えるとき、静かに涙をこぼすお母さんの姿。
モニーチャンは泣くことなく、お母さんにぎゅっとしがみつき、そばを離れようとしませんでした。しかし手術台に乗るその瞬間、堪えていた感情があふれ、一度だけ涙があふれます。それでもすぐに落ち着き、まるでお母さんを安心させようとするかのように静かに目を閉じ、準備に入りました。
約3時間の手術は無事に終了し、腫瘍は摘出。現在も術後の治療を継続しています。
治療後も継続する包括的医療支援体制
がん治療は手術だけで終わりません。
術後の抗がん剤、感染予防、定期的な検査、心理的なサポートなど、治療の「その後」も見据えた多層的な支えが不可欠です。
ジャパンハートこども医療センターでは、医師・看護師だけでなく、薬剤師、検査技師、事務方、フードセンタースタッフ、日本の医療機関、インターン、そして家族までもが一体となって子どもたちを支えています。
子どもたちが「自分らしく」いられるように、生活の一つひとつにも配慮が行き届いています。
今回の吉岡ミッションは、国境を越えて専門性と想いが重なり合い、一つの命に集中する医療の姿を体現した5日間でした。手術室でメスを握る人だけではなく、その背景には、何度もカンファレンスを重ねた日本の医師たちがいて、治療に寄り添う看護師がいて、子どもたちの不安に寄り添う家族がいます。
私たちは、こうした“チーム医療”の力を信じています。
そして、これからも「一人ひとりの命に、多くの人の手をそっと添える」医療を届けていきます。
長期学生インターン 笹木澪莉
▼医療支援プロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/activity/medical/