活動レポート

← 活動レポート:トップへもどる

あの日の勇気、今に繋がる ーソリームくんのその後ー

up 2025.08.04

彼の名前はソリームくん。

2025年7月中旬、長い闘病生活を乗り越え、スタッフに見守られながら、笑顔で病院をあとにしました。入院中に見せてくれたひたむきな姿と優しい心は、周囲にたくさんの元気とあたたかさを届けてくれました。その笑顔には、頑張り抜いた日々と、これから始まる新しい生活への希望があふれていました。

ジャパンハート カンボジア インターン

ソリームくんは、骨にできる悪性腫瘍「骨肉腫」の治療のため、2024年9月ごろから約10ヶ月にわたる闘病生活を送っていました。2024年12月25日、彼は右足を切断するという大きな決断をしました。最高顧問の吉岡医師による、集中的な手術活動に合わせて行われました。

手術前、彼の口からこぼれたのは、「手術したくない」「歩けなくなるのが怖い」といった不安の言葉でした。がんに立ち向かう強い気持ちを持ちながらも、その心の奥には大きな葛藤がありました。しかし、医療スタッフから「義足があれば、また歩ける可能性がある」と聞いたことで、彼の中に希望の光が灯ります。

「もう一度歩けるかもしれない」——そう思えたことが、手術を受ける決心につながったのです。

手術当日、彼はどこか落ち着いた様子で、スタッフに小さな微笑みを見せてくれました。
その姿からは、この日を迎えるまでにどれほどの勇気を振り絞ってきたのかが伝わってきました。数時間におよんだ手術は無事に終了し、スタッフ全員にとって、それは何よりも尊いクリスマスプレゼントとなりました。

▼ 当時の活動レポートはこちらから
https://www.japanheart.org/reports/reports-cambodia/250203.html

優しさで病棟を照らしてくれた日々

手術後も抗がん剤治療を続け、約7か月が経った今、ソリームくんは無事に退院を迎えました。脚を失った彼の移動手段は、小さな車のおもちゃ。片手で器用に操りながら、病棟の中を元気いっぱいに走り回っていました。

彼との思い出はたくさんありますが、特に印象的だったのが、手洗いと消毒の時間です。
ソリームくんは自ら進んで「アルコール消毒係」を担当し、病室をひとつひとつ回りながら、ほかのこどもたちに声をかけてくれていました。

「まだ手、洗ってないよ」「ちゃんと消毒してね」

誰に言われるでもなく、自分の役割を見つけ、みんなのために動くソリームくん。
いつだって一生懸命な彼の姿に、私たちスタッフも日々元気をもらっていました。

ジャパンハート カンボジア インターン

医療スタッフのひとりは、彼の変化についてこう語ります。

「彼は最初、手術に対してとても不安を抱いていました。“歩けなくなるのが怖い”と話していたこともありましたが、自分の中で気持ちに整理をつけて手術を決断し、その後は驚くほど前向きになっていきました。今では義足を作る準備も始めていて、“また歩けるようになりたい”という希望を持っています。」

そんな彼の姿は、スタッフや仲間たちにとっても、大きな希望となりました。

「兄弟」のように過ごした仲間

彼と特に仲の良かった入院仲間のひとりが、横紋筋肉腫と闘っている15歳の男の子、モニーくんです。ソリームくんは、そんな年上の彼のことを「ボーン・モニー(モニーお兄ちゃん)」と呼び、まるで本当の兄弟のように接していました。

ジャパンハート カンボジア インターン(ソリームくん左端、モニーくん左から2番目)

ふたりは年齢の差を超えて、毎日のように一緒に過ごしていました。
折り紙や色塗り、スマートフォンのゲーム、かくれんぼ——治療の合間には、遊び、笑い合い、励まし合う日々。モニーくんはソリームくんについて、こう語ります。

「最初は少し可哀想だなと思いましたが、すぐに明るくて優しい子だとわかりました。彼がよく話しかけてくれたので、私も自然と話しやすかったです。一緒にスマホでゲームをしたり、かくれんぼをしたり、折り紙でいろいろなものを作ったりして過ごしました。退院する時には、家に帰ったら気をつけて、今の病気が早く治りますように。そして、もう同じ病気になりませんように、と手紙を書いて渡しました。」

彼の紡ぐ言葉には、まるで兄のようにソリームくんを見守ってきた、モニーくんのあたたかな思いが込められていました。ふたりが病院で育んだ絆は、きっとこれからの人生の中でも、そっと背中を押してくれることでしょう。

「これから」ー未来をつなぐ一歩として

ジャパンハート カンボジア インターン

彼は今、家族のもとへ帰り、新たな生活を歩み始めています。病気と向き合った日々、手術という大きな決断、そして仲間たちと過ごした時間——そのすべてが、彼の中で強さとなり、優しさとなって息づいています。

彼の存在は、「医療を届けること」が命を救うだけでなく、こどもたちの心や人生までも支えるのだということを、静かに語りかけてくれているようです。

どんなに小さな一歩であっても、それが「生きる力」に変わる瞬間を、これからも見届けていきたい。そしてまた、次のこどもの未来へと、その歩みをつないでいきたいと思います。

長期学生インターン 伊藤大輝

▼カンボジアプロジェクトの詳細はこちらから
https://www.japanheart.org/tag/cambodia/

Share /
PAGE TOP