活動レポート

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小さな命と向き合った1カ月

up 2020.06.01

ある朝見た小さな小さな赤ちゃんをお家に返すまでの助産師の記録です。

日本では2000gを下回る赤ちゃんはNICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児治療回復室)で管理するのが一般的です。
もちろん、ここJHCMC(ジャパンハートこども医療センター)にはNICU、GCUなんて大それたものはありません。

ある朝、私の目に小さな赤ちゃんの姿が目に入りました。細くて、赤ちゃんと言われる所以である、皮膚の赤さが見られませんでした。

3月最終日、ある小さな赤ちゃんが私たちの病院に入院したいと連れてこられました。
推定週数31週(正期産は37週〜)、体重1700g(出生体重の平均は3000g程度)。皮膚の色はよく、呼吸も安定していました。通常31週の赤ちゃんは呼吸をするのが難しいことが多いです。
まず推定週数に疑問を持ち、この仕事を始めて初めてBallard法(赤ちゃんの在胎週数を推定する評価方法)を一つずつ確認して、推定週数を確認。35週くらいであるとアセスメントします。
ここには酸素はありますが、その酸素も限りがあります。もちろん呼吸器もありません。
もしこの子に何かあったら、、、。ここでこの赤ちゃんをケアすることは難しいと私たちは判断し首都プノンペンにある大きな病院に搬送しました。

朝見つけた赤ちゃんは、私が搬送したその赤ちゃんでした。
プノンペンの病院で1週間半の入院を経て退院し、ヘルスセンターにワクチンを打ちにきたところだったのです。

小さな命と向き合った1カ月 カンボジア 助産師 海外ボランティア

赤ちゃんの診察をすると、SpO2(経皮的酸素飽和度、通常は95%以上)は80%台に下がり、ミルクを飲むのも中々進まず、このまま家に帰れば、また体重が減ってしまい元気がなくなることが予測されました。
そこで、ここジャパンハートに入院してもらうことにしました。
一度はここで見ると決めたものの、わたしは内心不安でしょうがなかったです。ですが、同時に「この子を守りたい。」という使命感のようなものが強くありました。
その日から、助産師にとってチャレンジな日々が始まります。

赤ちゃんのストレスを最小限にするために、保育器の中に入れ、不安定な呼吸をいつでもキャッチできるようにモニター(SpO2と脈拍を持続的に調べる機械)を装着します。
ちょっとの間も、モニターの数字が気になって、ちょっとアラームが鳴るとヒヤヒヤして赤ちゃんを見つめます。
「この子をここでしっかり大きくするんだ。今、この子をしっかりケアできるのは私たちしかいない」見つめながらそう自分に言い聞かせます。でも、「もし何かあったらこのマスクバック(呼吸ができない時に空気を肺に送るもの)を使って・・・」と最悪のパターンも同時によぎります。
ミルクをあげるときには、赤ちゃんのSpO2は下がりやすくなります。一度下がると戻ってくるまで、自分の心臓がバクバクして、戻ると一安心する自分がいます。
2時間おきに授乳をして、この不安と闘う毎日です。

小さな命と向き合った1カ月 カンボジア 助産師 海外ボランティア

一日がすぎ、二日がすぎ、日に日に良くなっていきます。良くなってくると、
お母さんにも少しずつ赤ちゃんに触れてもらう時間を作り、カンガルーケアもしてもらいました。

カンガルーケアをすると不思議と赤ちゃんの呼吸は落ち着きます。ある日パパにカンガルーケアをしてもらいました。初めは恥ずかしがっていたパパですが、翌日は自分から服をめくり、カンガルーケアをすすんでするようになりました。
日本のNICUでは当たり前に行われているカンガルーケアですが、このようなケアはどこに行っても赤ちゃんとママパパにとって良い影響を与えるものなんだなというのを再確認しました。

ジャパンハートにきて2週間。赤ちゃんは哺乳瓶でミルクをゴクゴク飲んで、呼吸も安定して、自宅に帰れるようになりました。初めは「寝返りするまでここに入院している」と言っていたママも、自分でミルクをあげられるようになり、自信がついたのか「家に帰りたい」と最後は笑顔で帰っていきました。

小さな命と向き合った1カ月 カンボジア 助産師 海外ボランティア

小さな命と向き合った1カ月 カンボジア 助産師 海外ボランティア

赤ちゃんとママが帰っていく姿を見て、不安なことだらけではあったけど、ここで見てよかったとしみじみと感じた最終日でした。
ここにくるたくさんの産後のお母さんたちが家に帰って安心して子育てができるように、これからも”ケア”していきたいと思います。

この赤ちゃんをケアしている間、家族は私にこう話してくれました。「前の病院では、こんなにいろんなことをしなかった。赤ちゃんにこんなに優しくしてくれてありがとう」と。
カンボジア の大きな街(プノンペンやシェムリアップなど)には大きな病院があり、他国から医療機器や技術が入ってきて、医療のレベルは高くなってきています。
ですが、今回の赤ちゃんのようなケースでは、お母さんが家に帰ってから安心して子育てをできるためのケアが必要だと私は思います。このケースを通して、私はジャパンハートで働く助産師たちが、”ケアをする”ことの大切が伝わってくれたらいいなと期待しています。

小さな命と向き合った1カ月 カンボジア 助産師 海外ボランティア

カンボジア 助産師 西川美幸

▼ジャパンハート 国際助産師研修の詳細はこちらから
https://japanvolunteer.org/volunteer/midwife_long/

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