2025年9月3日から6日までの4日間、青山興司医師を中心としたチームによるミッション(集中的な手術活動)が行われました。今回は、尿道の出口が本来の位置に開かない『尿道下裂』の子どもに対して5件の手術を実施したほか、希少ながんである『精巣傍横紋筋肉腫』の小児症例にも1件対応しました。
長年の歩みが子どもたちを支える力に
今回の活動を率いたのは、小児外科・小児泌尿器科を専門とする青山興司医師です。
青山医師は2011年1月からジャパンハートの活動に深く関わり、中国四国小児外科医療支援機構に所属する医師らと共に、ミャンマー・カンボジア・ラオスなどで20回以上の医療ミッションを実施し、320例以上の手術を行ってきました。また、海外では治療が困難な子どもを日本に招いての治療にも数多く携わり、国際的な小児医療支援に尽力されています。
こうした豊富な臨床経験と教育実績に裏打ちされた確かな技術が、今回の活動でも現地の医師・看護師にとって大きな学びとなり、子どもたちの命を支える力となりました。
現地入りした青山医師は、まず小児がん症例について現地医師と意見交換を行いました。メスの入れ方などを丁寧に議論し、治療方針を確認。その後はカンファレンスで一人ひとりの子どもと挨拶を交わし、診察をします。単なる診療行為にとどまらず、子どもたちに寄り添う姿勢が現場に安心感をもたらします。
命をつなぐ8時間の挑戦
今回のミッションで小児がん手術を受けた1歳の男の子リーヘンくん。普段は元気いっぱいに遊ぶ姿が印象的ですが、その小さな体で懸命に治療に立ち向かっています。
リーヘンくんは生後9か月で最初の症状が現れ、ベトナムの病院を受診したところ、当初は膿瘍と診断されました。しかし、その後も腫瘍は大きくなり、抗がん剤治療を受けたものの、費用の問題から現地での治療継続が難しくなりました。そこで家族はプノンペンで病院を探し直し、ヘブロン病院を受診。そこでジャパンハートを紹介されたことが、私たちとの出会いにつながりました。ここで改めて生検を行い、横紋筋肉腫と確定診断。39サイクルにわたる抗がん剤治療に加え、放射線治療や手術を組み合わせて治癒を目指す計画が立てられました。治療を続けながら最善の方法を模索し、最終的に腫瘍を取り除く手術を行いました。
手術当日、リーヘンくんは緊張しながらも、動画を見ながら落ち着いた様子を保っていました。青山医師、宮田医師、人見医師、そして当院のシーパン医師らがチームを組み、それぞれの役割を確認したうえで手術が開始されました。
約8時間に及ぶ手術では、700gに達する腫瘍を切除しました。術後に大きな合併症はなく、リーヘンくんはICUで安定した経過をたどっています。看護師たちからも「本当に強い子だね」と声をかけられ、チーム全体が安堵に包まれました。現在は抗がん剤治療を継続しながら、腫瘍の残存度を確認する病理検査の結果を待っているところです。その結果に基づき、抗がん剤の追加投与や放射線治療など、今後の治療方針が決定される予定です。
その日のオペカンファレンスでは、青山先生が「長時間の手術を安全に終えられたのはチーム全員の協力のおかげ」と述べ、スタッフへ拍手を送る場面がありました。これは単なる医療行為にとどまらず、現場全体の士気を高め、次の活動へとつながる貴重な瞬間でした。
短期と長期をつなぎ、持続可能な小児医療へ
今回のミッションは短期間で集中的に行われましたが、単発的な活動にとどまりません。
同月には小児科専門医であり小児腫瘍科の七野浩之医師が現地でレクチャーを行い、10月には長期ボランティアとして2名の小児科医が新たに加わりました。さらに、小児外科医による次回ミッションも決定しています。
こうした動きは、新病院の開院と同じ方向を見据えたものであり、短期と長期の取り組みが互いに補い合うことで、子どもたちの命を守りながら現地医療者の技術向上にもつながっています。
私たちは、日本の医師が現地と共に関わり続けることで、高度な治療を安定的に届ける体制を守り、より多くの子どもたちに医療を広げていきます。短期と長期の活動が重なり合うことで、その輪は着実に広がっています。現地医療者と日本の医師が手を取り合うことで、命を救う連携は今後も大きく成長し続けるでしょう。
長期学生インターン 笹木澪莉
▼カンボジアプロジェクトの詳細はこちらから
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