活動レポート

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心の奥の声を拾う通訳

up 2019.01.23

スースダイ!カンボジアアドバンスナースのフクダです。

カンボジアで働くようになって7カ月が経ちましたが、話せるクメール語は「咳出ますか?おなか痛くないですか?」などちょっとした問診程度です。細かい問診や薬の説明などの際には、通訳の存在はなくてはなりません。とりわけ、小児がん病棟での医師から家族への病状説明においては、通訳の力は本当に大きなものとなっています。検査の数値がよくないです。治療の効果が乏しいです。辛い内容も通訳の口から家族に伝えなければなりません。彼らの背負うものはとても大きいです。

ジャパンハートこども医療センターでは、現在5名の日本語通訳が活躍しています。その中の一人、ナリーちゃんについて紹介します。

ナリーは日本への留学経験もあり、今も日々本当に努力をして日本語を習得しています。知らない言葉を知ることは楽しいとナリーは言います。私にとってそんなナリーは特別な通訳さんです。それは喘息発作で入院中の女の子との通訳をお願いした時のことです。

「フクダさん、この子絶対になんとかしてあげたい」

ナリーが私に強く訴えてきました。

喘息の原因はその女の子の働く工場の粉塵が原因でした。細かく聞いていくと家族みんなでその工場で働いていて、お父さんとお母さんは薬の買い方も、プノンペンへの行き方も知らないといいます。工場長からの借金もあります。学校に行っていない彼女も読み書きはできません。お兄ちゃんも病気をしています。

ナリーは続けて言います。
「言葉づかいも上手だし、笑顔も素敵だし、絶対いろんな仕事できる子。この子も本当はもう工場で働きたくないと思う」

彼女の心の奥の声を拾うかのような通訳を毎日続けてくれます。ナリーと私でどうにかしたいと他のスタッフに相談すれば、みんな力を貸してくれました。工場で働かずに済む方法を考え本人に提案しました。

しかし、彼女が選んだ答えは、また工場で働くことでした。彼女にとっての社会は工場で、喘息発作のリスクを承知で家族と一緒に工場で働くことを選んだのです。
私たちはその彼女の決断をひとまず受け入れサポートすることにしました。
今もナリーから彼女にときどき連絡をしてもらってコンタクトをとっています。

「この子絶対になんとかしてあげたい」

そんな一言にナリーの患者への思い、そして通訳としての覚悟、責任すら伝わってきました。

ナリーは患者との時間を大切にしてくれます。小児がんの子供たちともよく遊んでくれます。子どもたちの小さな変化にも気が付いてくれます。

看護師や医師だけが医療者ではありません。
医療者、非医療者、そのくくりは私たちの病院にはありません。
患者への思いが医療を強くする。今日もナリーは元気に患者に向き合っています。

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