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たとえこの世で生きられなくても心を救う医療を

up 2022.07.26

はじめまして助産師の槇本です。以前にもお世話になったこの国に再び関わる事ができ、素直に嬉しく思っています。

着任して2カ月目、なんとなくジャパンハートこども医療センターの業務に慣れてきた頃でしょうか、「お腹の赤ちゃんが動いていない」来院された8カ月の妊婦さんの言葉。
赤ちゃんの状態を確認するためモニターを装着しようにも心音がとれない。嫌な予感がしました。
エコーで心拍を探しても見つからない…
私はカンボジアに来るまでエコー操作は数える程度しかしたことがありません。
“私が映し出せてないだけ”この時ほど自分の手技の未熟さを心から願ったことはありませんでした。先輩助産師が再度確認しましたが結果は変わらず、心拍はすでに止まっていました。
彼女の場合、妊娠週数から陣痛を起こすお薬を使い通常のお産と同じ形をとります。悲しみも束の間、お産準備のためそのまま入院となりました。

ジャパンハートこども医療センターの周産期事業部の入院室

周産期では、世界中どこでも起こりうる出来事です。こういった状況下でのケアにおける大きな違いは、国の文化や社会的背景であり、何より重要なのはその国に暮らす人々の生活価値観を理解することです。

お産前、赤ちゃんと対面するか尋ねました。彼女は少し沈黙し「会わない」と告げました。日本であれば、きっと私は対面することを勧めていたと思います。
しかし、この国のことや彼女の人生観を把握できていない私は彼女の意向に従いました。一体彼女は何を感じどんな想いでいるのだろう。知りたくても解れない自分は何ができただろう。他スタッフもまた、同じような気持ちだったのではないでしょうか。
この親子へのせめてものギフトにと、愛らしい棺を作るスタッフもいました。何ともいえない、虚しく儚い時間でした。

空き箱に装飾をして棺を手作りしている

ご寄付でいただいたベビー服を棺に入れる赤ちゃんに着せるため選んでいる

お産当日、かわいらしい1860gの男の子が生まれました。赤ちゃんが眠っている棺をぼんやりと見つめる彼女に、もう一度対面を確認しようか迷いましたが、やめました。
そんな心情を察してか「オークンチュラン、ネックルー(ありがとう、先生)」笑顔でそう伝えてくれる彼女の言葉が唯一の支えでした。
医療従事者として知識や経験を積む程、ああすれば良かった、あの時もっとこうしておけば…といった虚無感や後悔は増すばかり。
けれど、その度に患者さんの言葉や生き方がこの感情を拭ってくれていました。いつだって救われているのは私なのです。

“たとえ死んでも、心救われる医療“

この言葉に辿り着くには随分と時間がかかりそうですが、この国のこと、そして心を救うという意味を改めて今、周産期の立場から学び命のもたらす様々な感動に感謝している今日この頃です。

生まれてくれて本当にありがとう

助産師 槇本

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