カンボジア
途上国の医療支援
2016年5月、医療活動の拠点としてジャパンハートこども医療センターがオープンし、2018年6月から小児がん治療を開始しました。治療によって免疫力や抵抗力が落ちやすい子どもたちに衛生・栄養に配慮した給食を提供することは非常に重要です。安全な食事の提供を実現するため、翌年に長沼昭夫様のご支援により、「長沼給食センター」を建設することができました。安全な水を供給するための環境整備や調理師へのトレーニングを行い、2019年10月より給食提供を始めました。2020年に入り、カンボジア人調理長が新たに加わり、患者さんの栄養アセスメントと共に、毎日3食の食事を提供しています。
また、ジャパンハートこども医療センターに勤めるスタッフへも、安全で栄養の考慮された給食を提供し、患者さんへの治療に集中できるようサポートしています。

給食センターを稼働させるにあたり、食の安全性を担保するための環境整備は欠かせません。具体的に実施した施策は次の通りです。
給食センター厨房内の区分け
食材ごとに保存する冷蔵庫を分け、下処理、加熱調理、宗教食を調理するエリアは全て区分けを徹底しています。
安全な水の確保
当院が位置する地域は上水道の整備が不十分であり、飲水可能な水道水は供給されていません。そのため、北九州市水道局様など多くの方のご協力を得て水質検査を実施し、その後、水質をモニタリングし、塩素消毒する体制を敷きました。
調理師への衛生・栄養講習を実施
プノンペン市内にある国立小児病院は、カンボジア国内の病院で最初に栄養管理を開始しており、患者さんへ病院食を提供しています。その給食調理施設を管理している栄養士、調理師の皆様にご協力頂き、衛生と栄養についての実習を受講させて頂きました。そこで得た多くの学びを、本給食調理施設の衛生管理に役立てています。
調理師による衛生管理
衛生的でない環境下で調理・提供が行われることの多いカンボジア。本厨房で調理する際は、食の衛生を守るためマスク、帽子、エプロンの着用、厨房に入る際の手指洗浄・消毒を徹底しています。食器は全て殺菌消毒を行い、調理後は毎日厨房内の清掃も行っています。

食文化を考慮した献立
カンボジアも他国と同じく、その地形や歴史、文化が作り上げた美しい食文化を持っています。この国に栄養指導がまだ整っていないからといって、一概に日本式の健康・栄養概念を押し付けることは独りよがりの支援にしかなりません。カンボジアの栄養状況には、摂取する栄養素の偏りや食生活・食事観の違いによる様々な課題がありますが、それを「変える」のではなく、彼らの食文化や味覚に基づいて、現地スタッフと共同で新たな方向性を見出していきたいと考えています。食事も治療の一環ですが、他の治療と違うのは“おいしい”という喜びを与えることができる点です。子どもたちの“おいしい!”という笑顔を生み出しながら、適切な栄養管理に近づけていけるよう日々工夫しています。
闘病と成長を支える、栄養への配慮
闘病中の子どもたちは、治療内容によって食欲が低下し、味覚が変化して普段通り食事を摂ることができない時期があります。そのような変化に適切に対応し、食事内容を逐一調整・変更することは彼らの栄養状態を維持・改善するためにとても重要です。栄養状態の悪化は治療効果を低下させるだけでなく、発達段階にある子どもたちの成長にも影響を与えます。そのため、病態、治療状況、栄養状態、発育状況等と食事摂取量を日々モニタリングしながら、適宜介入し、栄養状態の維持・改善に努めています。
抗がん剤治療の副作用で食べたくなくなることも多々あります。それでも少しでも口にしたいと思ってもらえる食事を提供できるよう、工夫を続けています。

給食センターでの食事提供を通じて、カンボジアの未来と医療を担うスタッフにも、栄養や衛生について学べる機会を作りたいと考えています。直接的な医療介入だけではなく、日々の食事摂取が人々の健康に与えられる可能性をこの場所から広めていきたいです。
また、カンボジア国内では、栄養士の国家資格の制度がないだけでなく、一般的な教養としても栄養について学ぶ機会は非常に限られています。この国の農村部には発育阻害や低体重といった低栄養状態児が一定数いる一方、都市部には肥満児が増えているという栄養課題の二重負荷を抱えています。成人の生活習慣病も増え続けており、今後ますます食事を通じた一次予防が必要となっていくと思われます。この給食センターを拠点とし、地域住民に栄養や衛生の啓発を行っていける場となっていくよう、スタッフ一同努力を重ねていきます。

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