活動レポート
カンボジア
2026.08.31
ジャパンハートで活動する助産師は現地の周産期医療にどっぷりと関わることができ、さらに日々の仕事を自分で柔軟にアレンジできることが魅力の一つです。
例えば、主な活動拠点はジャパンハートの病院ではなく提携病院であるポンネルー病院です。
通訳者も常駐ではないため、わずかな英語と現地語(クメール語)を駆使して活動しており、現地の状況や課題を捉え、母子が安全にお産を迎えられるように「今、何が必要なのか」「自分たちに何ができるのか」を考えながら、現地の助産師と共に一つひとつ活動をつくっています。
さらにそのことも踏まえ、助産師は自らジャパンハート以外の病院やヘルスセンターへ1人で出向き活動することもあります。
そして今回、7月20日〜23日にかけて、ジャパンハート医療センターで活動する学生インターンが助産師2名のクロッチュマー病院での活動に同行させていただきましたので、その際の同行記をお届けいたします!!


クロッチュマー病院(以下、KCRH)はジャパンハート医療センターから車で2時間ほどの地域に位置しています。
この病院は “モバイルミッション” と呼ばれる出張手術診療を行うための提携病院でもあり、これまでも地域医療向上のためにジャパンハートと協力し合ってきました。
カンボジアの医療レベル指標であるCPA (Complementary Package of Activities)もジャパンハートが補完する形で運営しているポンネルー病院と同じCPA2の病院です。
※CPAには3つの分類があり、CPA3が最も規模・設備が充実し、高度医療に対応しています。CPA2、CPA1の順に規模・設備が小さくなります。
▼出張手術診療について知る
https://www.japanheart.org/activity/medical/medical-support.html

昼前に到着してお昼ご飯を済ませた後、1件のカイザー(帝王切開)と2件の通常分娩に立ち会いました。
カイザーはジャパンハート医療センターにて2度ほど立ち会っていましたが、通常分娩を見るのは初めてでした。
陣痛から生まれるまでがとても早く、スムーズにお産が進む人がいる一方で、子宮口の開きが遅く、何時間も続く痛みに耐え続ける人もいました。
カンボジアの助産学生は実際にお産をとることもあり(もちろん医師の監督下)、より実践的なことに関わるそうです。
でも、私は日本から来た一学生のインターン。
妊婦さんの腰をさすったり、出産時や膣の縫合の際に手を握ったりするなど、インターンでもできる最大限を試みる一方で、自己紹介で「学生インターンです」と話していても、「え、モエカはdelivery (お産をとる) しないの?」と言われ、医療資格がなく、急変などが起こっても一歩下がってただ見ていることしかできないもどかしさを強く感じ、今まで以上にやるせない気持ちになりました。


2日目に立ち会ったお産は妊娠39週4日の妊婦さんで、陣痛が始まり生まれるまでの経過は順調でした。
しかし、出産後…。
促進剤と産むときの強いいきみにより、子宮頸管裂傷(しきゅうけいかんれっしょう) と思われる症状で動脈性出血多量となってしまいました。
血圧は低下し、ヘモグロビン値も11から6まで低下。見る見るうちに妊婦さんの顔色は真っ青になっていき、Wルートをとることとなりました。
私はこんなにも急速に人の顔色が変化するのを初めて見て、このままだともしかしたら…。という不安から、全身の鳥肌と手足の震えが止まりませんでした。
少しでも状態を改善させようと、付き添いの旦那さんがKCRHの助産師に頼まれて買ってきた鉄剤が印象的で、なんと口から液体状の鉄剤を摂取させていました。
日本人助産師いわく、「見たことない!こんなのあるんだ!」とのことで、思わずその鉄剤を写真に収めました。


その妊婦さんはなんとか峠を越え、しばらく様子を見ていると徐々に体調は回復し何日か後に帰宅することができました。
“母は偉大だ。” という言葉はよく聞きますが、実際に出産現場に立ち会い、命がけで子供を産み育てて行く母の偉大さを改めて、身をもって実感した出来事でした。
この日は吸引分娩に立ち会いました。
このお産で生まれた赤ちゃんには帽状腱膜下血腫(ぼうじょうけんまくかけっしゅ)の恐れがあり、それに気づいた日本人助産師はすぐに現地医療者へ共有しました。
的確な判断と行動の速さ、そしてそれに対して「わかった!」とすぐに応じる現地の医療者の姿が印象的でした。
双方の姿から、互いに信頼し合い、自然に連携できる関係性が築かれていることを感じました。


同行最終日はジャパンハートの日本人助産師が産科病棟での女性教室の実施をメインに行いました。
今回の女性教室は “更年期” に焦点を当てたものでした。
【助産師:Mさんより】
カンボジアでは、若いうちに出産し、傾向的に多産な上、畑仕事などで重い物を持つ女性も多いため、子宮脱(POP)が多くみられます。
病気について知らないまま過ごし、気づかないうちに子宮脱になってしまうケースもあります。また、自分自身のケアをする時間が十分にないまま更年期を迎える女性も少なくありません。
ジャパンハートで活動する通訳者だけでなく、KCRHの医師や助産師も参加して英語からクメール語に翻訳してくれるなど、積極的にレクチャーに協力してくれました。
そのおかげで、産科病棟はもちろん、一般外来の待合でも実施することができ、よりたくさんの患者さんに日本人助産師の声を届けることができました。


命の誕生に立ち会い続けたこの4日間は、私のインターン活動の中でも忘れられない期間となりました。
そして、今回の同行を通して強く感じたのは、助産師の活動が「お産を支えること」だけにとどまらないということです。
日々、現地の医療者とともに患者さんに向き合い、必要な情報を伝え、知識を共有し、時には地域の病院へ自ら足を運ぶ。
そうした関わりの一つひとつが現地の医療者との信頼関係を築き、地域の医療を支える力になっているのだと感じました。
今回、KCRHで日本人助産師が迅速に判断し、それを受けて現地の医療者がすぐに動く姿を目にしました。
また、女性教室では現地の医師や助産師が翻訳やレクチャーに協力してくださり、より多くの患者さんへ知識を届けることができました。
こうした姿を見て、ジャパンハートが大切にしている「地域連携」は特別な取り組みとして突然生まれるものではなく、現地で活動する一人ひとりの医療者が、日々の診療やコミュニケーションを通して、築いてきた関係性の積み重ねによって成り立っているのだと実感しました。
一人の助産師が地域へ足を運び、現地の医療者と関係を築き、そこで生まれたつながりが次の命の誕生へと繋がっていく。
今回の同行を通して、そんな「地域に根ざした助産師の活動」の大きな力を感じました。


長期学生インターン 岡北 萠花