活動レポート
ラオス
2026.10.29
ジャパンハート・ラオスで看護コーディネーターとして、ラオス北部のウドムサイ県病院で取り組んでいる「甲状腺診療技術移転プロジェクト」を担当している、看護師の関山です。
このプロジェクトは7月にPhase 2の活動期間を終え、現在は1年間の延長期間に向けた準備を進めています。
同じタイミングでウドムサイ県病院では病院全体の大規模な建て替え計画が発表され、それに伴い、これまで使用してきた甲状腺診察室も移動することになりました。
プロジェクトも病院も一つの節目を迎えています。
診察室の移動作業を終えた9月8日、 プロジェクトの開始当初からウドムサイでの活動に関わってきた2人のラオス人スタッフに、これまでの活動とこれからのプロジェクトへの思いを聞きました。
今回話を聞いたのは、ジャパンハート・ラオス事務所で甲状腺プロジェクトリーダーを務めるスーさんと、ドライバーのラーさんです。スーさんは勤務10年目、ラーさんは12年目になります。


入職当時、二人ともジャパンハートでの具体的な将来像があったわけではありません。
スーさんは当時の上司から今後の目標を聞かれた際にも、「医療について学びたい」としか答えられなかったそうです。
「まさか10年も働くとは思っていなかった」
そう振り返るスーさん。二人とも、これまでの年月は「あっという間だった」といいます。
ウドムサイ県病院で甲状腺診療技術移転プロジェクトが始まったのは、2018年。以来、約8年にわたり活動に取り組んできました。
プロジェクト開始前、ラオス北部で現地調査を含めた甲状腺診療を始めた当初は、専用の超音波診断装置もなく、他の病院から借りた機器を車に積み、ポンサリー県まで運んで診療を行っていたそうです。
その後、ウドムサイ県病院を拠点にプロジェクトが始まった当初も、診察には病院内の一室を移動しながら使用し、医療物品も限られたスペースを活用して保管するなど、現在とは大きく異なる環境で活動を行っていました。
「プロジェクトが始まった頃、今のような状態を想像できた?」
そう聞くと、二人とも「想像できなかった」と振り返ります。

Phase 1終了後にはウドムサイ県病院からもPhase 2継続の希望があり、安定した外来診療を継続できる環境を整えるためにも、甲状腺診療専用の診察室が新たに整備されました。
Phase 2では新規患者数も増え、甲状腺外来には月平均約15人の新しい患者さんが訪れています。
また、プロジェクト開始から現在までに、ウドムサイ県病院で180人の患者さんに甲状腺手術を提供してきました。
患者さんへの診療を重ねる一方で、現地医療者への技術移転も段階的に進めてきました。
Phase 2ではウドムサイ県病院の外科医が多くの手術で執刀を担うようになり、看護師も術前・術後の患者管理を主体的に行えるようになってきました。
Phase 1の頃と比べ、現地医療者が自分たちでできることが大きく増えたことを、スーさんも実感しています。
プロジェクト開始初期に甲状腺の全摘手術を受けた患者さんと、病院の外で偶然再会したことがあります。
現在も必要な薬を服用しながら元気に仕事を続けており、以前インタビューした際には「治療を受けることができて本当によかった」と話してくれた患者さんです。

スーさんとラーさんも、これまでプロジェクトで関わってきた患者さんをよく覚えています。
特にスーさんと患者情報を確認していると、カルテのIDを伝えただけで患者さんの名前が返ってくることもあります。
こうした何気ない再会からも、多くの人が活動を引き継ぎながら、長い時間をかけて患者さんとのつながりを築いてきたことを感じます。
10年以上にわたり仕事を続ける中で、二人自身の生活も変わってきました。今ではそれぞれ家庭を持ち、家族との時間も大切にしています。
甲状腺プロジェクトの活動では、手術活動などで2週間程度家族と離れることもありますが、出張中も毎日テレビ電話をしています。
もちろん、長く仕事を続ける中では大変なこともあったといいます。それでも、二人ともこれまでジャパンハートを離れようと思ったことはなかったそうです。
そんな二人に、なぜこれまでジャパンハートでの仕事を続けてこられたのかを聞いたとき、印象に残った言葉がありました。
「自分たちは医療者ではないけれど、ジャパンハートで働くことで、地方に暮らす人や、医療を必要としている人を助けることができる。それがうれしい」
二人とも地方の出身です。だからこそ、地方で暮らす人たちを支えられることは、二人にとってこの仕事の大きな意味の一つになっています。
最近ではラーさんの息子さんも父親の仕事に少しずつ関心を持つようになり、そのことをラーさんもうれしく感じているそうです。


今回移動することになった甲状腺診察室はPhase 2に向けて新たに整備され、約3年間、日々の甲状腺外来や日本人医療者が参加する診療活動の拠点となってきました。
診察室ができた当時は「やっと専用の診察室を持つことができて嬉しかった」そうです。
診察室は二人にとってさまざまな思い出があります。
Phase 2に向けて新たに整備されたこの診察室は、約3年間、日々の甲状腺外来や日本人医療者が参加する診療活動の拠点となってきました。
今回の移動を前に、二人で「少し寂しいね」と話していたそうです。

これから病院の建て替えが進む中で、甲状腺診療を取り巻く環境も変化していきます。今後どのように変わっていくのか、まだ模索が必要な部分もあります。
Phase 2を終え、甲状腺プロジェクトは次の段階へ進もうとしています。
スーさんが今後期待しているのは、ウドムサイ県病院の医療者がさらに専門的な知識や技術を身につけ、将来的に病院がラオス北部の甲状腺診療の拠点となることです。
2018年のプロジェクト開始から約8年。病院も、医療者も、甲状腺診療を取り巻く環境も変化してきました。
これからも、ウドムサイ県病院やプロジェクトに関わるさまざまな方、そして患者さんの声を聞きながら、病院が目指す甲状腺診療の方向を共有し、その中でジャパンハートに期待される役割を考えていくことが大切だと感じています。
プロジェクトの始まりから、その変化を間近で見てきたスーさんとラーさん。
今回二人とこれまでの歩みを振り返ることで、多くの人に支えられ、引き継がれながら現在の甲状腺診療がつくられてきたことを、改めて感じる機会となりました。
これからも私自身、看護コーディネーターとして、現地の皆さんと一緒に、ウドムサイ県病院が目指す甲状腺診療の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。

ジャパンハートラオス看護師 関山弘子