活動レポート
カンボジア
2026.10.26
2026年4月から10月までの半年間、メディカルチームのドクターとしてジャパンハート医療センター(以下、JHMC)およびジャパンハートアジア小児医療センター (以下、ACMC)で活動された、藤岡正樹(ふじおか まさき)医師。藤岡医師とジャパンハートとの関わりは今回が初めてではなく、最初の活動は2015年にさかのぼります。
今回のジャパンハートでの活動が終盤を迎えるなか、藤岡医師はこの半年間のカンボジアでの活動をどのように振り返るのでしょうか。 今回は、藤岡医師にお話を聞きました。

藤岡医師が初めてジャパンハートの活動に関わったのは、2015年のことでした。
きっかけは、ラオスで重度の斜顔面裂の奇形をもって産まれた患者さんの手術でした。ジャパンハートが募金を募り、この患者の手術を企画した際に、治療ができる医師として応じたのが当時長崎医療センターで形成外科部長であった藤岡医師でした。ラオス・カンボジアともに手術に必要な設備・器具が十分にそろっておらず、最初の手術は長崎医療センターで実施されました。その後、2回目、3回目の手術では、当時の執刀医であった藤岡医師をはじめとする長崎医療センターの形成外科チームがJHMCを訪問し、再手術を行いました。
こうした経緯から始まったジャパンハートとのつながりが、今回の活動へと続いています。

2026年4月から10月までの半年間、藤岡医師はドクターとしてJHMCとACMCで活動しました。定年退職を迎えるタイミングで、これまで培ってきた形成外科の経験や技術を生かし、カンボジアの現地医療者に手術の技術や新しい医療知識を伝えたい。その思いが、半年間にわたる今回の活動につながりました。
活動中、藤岡医師が大切にしてきたのは、自らが医療ボランティアとして診療や手術を行うことだけではありません。現地の医療者が自らの力で患者さんに適切な医療を届けられるよう、学びや実践の機会をつくり、経験を積み重ねていくことが、将来カンボジアの医療を支えることにつながると考え、若手医師の教育に力を入れています。
海外での医療ボランティアには、短期間の支援では対応が難しい課題があります。その一つが、術後のフォローアップやケアです。手術は、実施すれば終わりというものではありません。術後の感染症や合併症などを防ぎ、また問題があった場合には即座に適切に対応し、患者さんの回復を見守るためには、継続的な診察や適切なケアが欠かせません。しかし、短期滞在の医療ボランティアでは、帰国後までに十分に経過を追うことは不可能です。以前は、形成外科の基本的な手技である皮膚移植では術後の創ケアが現地の医師ではできなかったこともあり、短期ボランティア医師による皮膚移植をしっかり生着させることが難しい状況でした。
こうした課題を踏まえ、藤岡医師は、日本人医療者が短期間で手術を行うだけでなく、現地に腰を据えて活動し、現地医療者の育成に取り組むことが重要だと話します。日本人医療者が医療活動を担うことに加え、現地の医療者自身が手術の経験を積み、高度な技術を身につけていく。その積み重ねが、現地で継続的に患者さんを支える医療体制につながっていきます。今ではカンボジアの医師が皮膚移植を行うことができるようになっており、難治性の潰瘍に苦しむ患者さんの治療を行うことができるようになりました。

カンボジアの医療者とともに働くなかで、藤岡医師が感じたのは、医療者を育てる環境の重要性でした。カンボジアでは日本では当たり前の医療もままならない現実があり、これを改善するために先輩医師から継続的に指導を受け、実践を通じて学ぶ経験が必要です。しかし短期滞在のボタンティア医師の指導ではせっかく先進の医療を紹介しても、彼らが身に着けるには十分なトレーニング期間が取れません。
カンボジアでは、十分な指導を受けられる環境が整っていない医療機関も多く、若い医師が実践を通じて経験を積むための環境は、まだ十分とはいえないといいます。
藤岡医師は、医師としての基礎を築く20代のうちから適切なトレーニングを受けられる環境が必要だと考えています。そのためには、医療者を育成できる指導体制を整えるとともに長期滞在の指導医の存在は不可欠であり、その指導の下に若手医師自身が学び続ける姿勢を持つことが重要と考えています。
とはいえ、いつまでも指導者頼みでは、指導者より上は目指せません。医療者が成長するうえでは、日々の診療や手術に加え、学会などを通じて自ら知識や経験を習得することが大切です。世界では日々新たな知見が報告され、医療技術が進歩しています。学会への参加は、カンボジアの医療の現状を振り返り、海外の新しい技術や知識に触れる貴重な機会となります。ほかの医療者の発表を聞くことで、自分たちの現在の課題を知り、これから何を学ぶべきかを考えるきっかけにもなります。
2026年11月にはカンボジア国内にて外科学会が予定されており、藤岡医師の指導のもと、ジャパンハートの医療者も発表に臨む予定です。日々の医療現場での経験や学びを発表という形にまとめ、ほかの医療者と共有することは、本人の成長だけでなく、カンボジア現地の医療全体にとっても意義のある一歩となると考えています。他施設の医師との交流が若手医師のモチベーションを向上させ、さらにステップアップさせるきっかけになります。
カンボジアの若手医師は勤勉で高いポテンシャルを持っていますが、残念ながらそれを発揮できる教育、研修環境にあるとはいえません。自ら学び成長できる医師になるためには学会活動や論文発表というリサーチマインドは必須です。この半年で彼らは学会発表までできるようになりましたが、次回カンボジアを訪問する際には学術論文作成まで指導したいと藤岡医師は考えています。
カンボジアにとって、より高度な医療技術を伝えること。そして、現地の医療者が自ら学び、経験を積み、その成果を発信できるよう支えること。藤岡医師の半年間の活動には、目の前の患者さんへの医療だけでなく、これからのカンボジアの医療を担う人材を育てたいという思いが込められています。
今回の活動で培われた経験が、現地医療者の成長と、その先にいる患者さんたちの未来へとつながっていくことが期待されます。

ジャパンハートカンボジア広報 毛利 奏恵