活動レポート

カンボジア

2026.10.19

【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護 

ジャパンハートでは、カンボジアに病院を開院する以前、様々な村に出向き、診療を行う「巡回診療」を実施していました。毎回100名以上の患者さんを診察し、手術が必要な患者さんに手術を行っていました。

こうした巡回診療は、病院開院後も「出張手術診療」という形で継続しています。現在も、地域の医療レベルの向上を目的に、ジャパンハート医療センター(以下、JHMC)のスタッフが定期的に地域の病院へ出向き、外来診療や鼠径ヘルニアを中心とした手術を行っています。

そして、この出張手術診療の後に提携病院に一人で残り、現地スタッフとともに医療活動を行う日本人看護師がいます。この活動は「ひとりっ子」と呼ばれています。

今回は、「ひとりっ子」を2回経験した新垣星羅(あらかき せいら)看護師にお話を伺いました。

現地の病院で一人で過ごす中で、どのような役割を担い、現地スタッフとどのように関係を築いていくのでしょうか。そして、そこでどのような気づきや学びがあったのでしょうか。

ジャパンハート【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護

「ひとりっ子」とは

ひとりっ子」として活動する日本人看護師は、出張手術診療が行われる約2日前から現地の病院に入ります。出張手術診療のスタッフが到着する前に、使用する部屋や病棟の状況、手術に必要な物品が揃っているかなどを確認し、準備を行います。

出張手術診療が始まると、日中は他の看護師と同じように患者さんのケアを行い、夜は一人で病院に残り、夜勤を担当します。

そして3日間の出張手術診療が終了し、他のスタッフがJHMCへ戻った後も、現地に残ります。その後は、出張手術診療中に手術を行った患者さんを中心に、一人で術後のケアを行います。術後7〜10日ほどで抜糸を行い、患者さんのケアを終えるとJHMCへ戻ります。

ひとりっ子の期間は、基本的にジャパンハートの患者さんのケアを行いますが、それ以外の時間の過ごし方は細かく決められているわけではありません。現地病院の許可を得たうえで、病院の業務を手伝ったり、現地スタッフの仕事や診療の様子を見学したりすることもあります。

ジャパンハート【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護

現地スタッフとの関係構築

新垣看護師がこれまで「ひとりっ子」の活動を行ったのは、JHMCから車で約3時間、Prey Veng州にあるKampong Trabek病院です。この病院は、2026年の1月からジャパンハートとの提携が始まり、2026年9月末時点で、これまで4回の出張手術診療が行われています。

JHMCとは異なり、Kampong Trabek病院では、全員が英語を話せるわけではありません。
また、今年からジャパンハートとの提携が始まった病院で、ジャパンハートの日本人看護師がひとりっ子をするのは、新垣看護師が初めてでした。そのため、最初は、「クメール語を話せない日本人看護師を受け入れてもらえるのか」という不安があったといいます。

現地の病院には、英語が話せるスタッフもいますが、新垣看護師が主に関わるスタッフには英語が話せない人が多く、この病院で関係を築いていくためには、クメール語を話すことが必要だと考えました。

そこで、クメール語の本を使って勉強しながら、分からない言葉をスタッフに教えてもらいに行ったり、手が空いているときには自分から話しかけに行ったりと、積極的に関わることを続けました。

そうしたやり取りを重ねるうちに、少しずつ新垣看護師のことを気にかけてくれるスタッフが増え、他のスタッフを紹介してくれたり、病院内を案内してくれたりするようになったといいます。

ジャパンハート【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護

そして2回目のひとりっ子では、新垣看護師から声をかける前に、「オペを見る?」「リファーについていく?」と、現地スタッフから声をかけてくれるようになったそうです。

その背景には、新垣看護師だけでなく、それまでひとりっ子として現地に入った日本人看護師たちが、病院の様々な活動に積極的に関わってきたこともありました。そうした積み重ねによって、現地スタッフも少しずつ「日本人看護師がここに来たら、どんなことをしたいのか」を理解していったのではないかと、新垣看護師は語ります。

何度も日本人看護師がひとりっ子として現地に入ることで、少しずつ信頼関係が積み重なり、次に来る看護師が現地スタッフと関わるための土台にもなっていきます。

一人だからこそ、自分で考える

新垣看護師がひとりっ子を初めて経験したのは、カンボジアに来て2か月ほど経った頃でした。まだジャパンハートでの働き方にも慣れておらず、一人で患者さんのケアを担うことも初めてだったため、不安があったといいます。

普段の勤務や出張手術診療中は、医師や他の看護師がいてすぐに質問することができます。しかし、ひとりっ子の期間中は一人で現地に残ります。すぐに相談したり、確認したりできる人がいないため、普段であれば他のスタッフと「大丈夫」と判断できることでも、一人になると、「本当に大丈夫かな」と迷うことがあったそうです。

そうした環境で自分で判断する経験を重ねたことで、患者さんの傷の見方に変化がありました。

以前は、「カルテに抜糸と書いてあるから抜糸をする」というように、記録や指示をもとに判断することが多かったといいます。しかし、ひとりっ子を経験した後は、「術後何日目だから、今の状態なら抜糸して大丈夫だな」「この手術なのに、今抜糸してもいいのかな」と、手術内容や術後の経過、傷の状態まで自分で考えた上で判断するようになりました。

すぐに誰かに聞いたり、確認したりできる環境から離れ、自分で考えて判断しなければならない環境に身を置いたこと。それが、新垣看護師の患者さんを見る視点が変わるきっかけとなりました。

ジャパンハート【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護

変わらなかった、看護師としての思い

新垣看護師は、ひとりっ子を「自分を見つめ直す期間」だったと振り返ります。

ひとりっ子では、数日間の出張手術診療だけでは分からない、現地の病院の環境や医療のあり方を、実際にそこで過ごしながら知ることができます。その環境の中で、「自分がどこまでできるのか」を考える機会にもなります。

ひとりっ子に行く前は、自分の看護師としての考え方も大きく変わるのではないかと思っていたそうです。しかし、実際にひとりっ子を経験してみると、患者さんを見る視点や、自分で考えて判断する姿勢には変化があった一方で、看護師として大切にしてきた考え方そのものは、思っていたほど変わりませんでした。

ジャパンハート【カンボジア医療活動】「ひとりっ子」で見つめ直した、自分の看護

「考えが変わらなくてもいいんだなと思いました。考えが変わらなかったことで、自分が大切にしていた思いや考えは国が変わっても、同じなのだと気づくこともできました。日本にいても、カンボジアにいても、同じように患者さんに安心してもらえる存在でいたいなと思っています。」と、新垣看護師は振り返ります。

一人で考え、一人で判断し、一人で患者さんのケアをする。
ひとりっ子は、誰かにすぐ頼ることができない環境だからこそ、新垣看護師にとって、自分の看護と向き合う時間となりました。

長期学生インターン 岩橋雅