活動レポート
カンボジア
2026.10.12

2026年4月~10月までの半年間、メディカルチームのドクターとしてジャパンハート医療センター(以下、JHMC)にて活動した、酒匂赤人(さこう あかひと)医師。
これまで、医療活動も含め様々な国に行ってきたという酒匂医師ですが、ジャパンハートでの活動も終盤にさしかかった今、カンボジアでの半年間をどう捉えているのでしょうか。 今回は、酒匂医師にインタビューに答えていただきました。
初期研修が終わった後に消化器内科を7年ぐらいやりました。一度仕事を辞めて、1年間公衆衛生の大学院に行ってから、他のNGOでアフリカのマラウィに行ってHIVと結核のプロジェクトで半年間活動しました。その後は日本の病院で15年くらい内科医として勤め、今回また仕事を辞めてカンボジアに来たという感じですね。
中学生・高校生の頃から国際協力などにすごく興味がありました。医者になろうと思ったのも、それが大きな理由の1つでした。また、海外自体にもすごく興味があって、いろいろな国についてのテレビ番組を見たり、本を読んだりするのが好きだったし、学生時代からバックパッカーとしてさまざまな国を旅行したりして、今までに40か国近く行きました。
なので、いずれ海外に行きたいと思いながら働き、アフリカに半年間行った後も、「また海外で働きたい」とずっと思っていたので、「そろそろ行こうかな」と今回決めました。
ジャパンハートは、医師や看護師が直接患者さんの診療にあたることがメインなのかなと思います。公衆衛生やマネジメントがメインになる団体もあり、特にどちらのほうがいいということではありませんが、「ジャパンハートみたいなスタイルを経験するのもありかもしれないな」と思いました。
あと、学生時代にカンボジアを旅行したことがあって、すごく印象に残っています。いつか住んだり、働いたりしてみたいと思う国はいくつかありますが、カンボジアもその1つで、昔から「もっと知りたい」「旅行だけではなく、実際に住んで働いてみたい」と思っていました。なので、変な話ですが、ジャパンハートに参加したいというよりはカンボジアで働きたいということが、今回選択した理由としては大きかったです。

僕の仕事は、主に外来の患者さんの診療で、救急外来も含まれます。外来で診ていた患者さんがそのまま入院する場合には、自分が担当することもありますが、数としてはそれほど多くありません。
隣にある公立のポンネルー病院には肺炎などの内科の患者さんが多く入院していて、ジャパンハートでは外科系の患者さんがメインになっています。
外来患者さんも8〜9割くらいは、いわゆる内科の患者さんではありません。外科、産婦人科、泌尿器科、整形外科なども含めて、「どこかが腫れている」「しこりがある」「膿がたまっている」といった患者さんが多いです。
元々、僕は内科医として経験を積み、最初は消化器内科を中心に、その後は総合内科医としてある程度は幅広く診てきたつもりです。
糖尿病などの内科の患者さんもいますが、甲状腺腫瘍、そけいヘルニア、子宮筋腫など内科以外の患者さんを診ることが多いし、カンボジアでの病院のシステム等もわからないし、分からないことだらけで、気持ちとしては研修医くらいの感覚になるというか、そんな感じです(笑)
面白いと言えば面白いですが、大変は大変です。
日本で見る機会のない病気としてはデング熱とサラセミアは経験しました。
今はだいぶ慣れてきて、診察して、エコーで調べて、ある程度「こういう診断で、こういう治療だな」と分かるようになり、わざわざ他の日本人医師やカンボジア人医師に相談しないで済むことが多いですが、最終的に僕自身が手術などの治療をできるわけではありません。日本で内科医をしていたときなら、診断から治療まで自分で完結できることも多いですが、内科医としてできることに限りがあり、難しさを感じることがあります。その点でいうと、外科系の先生には羨ましさを感じることがあります。
あとは、自分の仕事にはスタッフの健康管理も含まれるので、カンボジアで注意すべき疾患の予防や治療などについてのガイドラインなどを調べてまとめ、健康管理マニュアルを作成したりしました。
自分の活動ももう終わりに近づいていますが、もう少し何か介入したいなと思っています。 蚊に刺されることで感染するデング熱も、患者さんも多いし、スタッフが感染してしまうこともありますが、「カンボジアだから、かかって当たり前」ということではなくて、病院や宿舎の環境整備や近隣のコミュニティに働きかけて、個人の虫よけだけでなく、蚊の発生をおさえるような環境整備など、もう少し減らせる余地があるんじゃないかなと思っています。

休みの日もウォーキングをしたり、自転車でサイクリングに行ったりして、田舎の方まで行くことがあります。
そうすると、やっぱりすごく格差があるなと感じます。
首都・プノンペンは、やっぱりすごく発展していると思います。僕は1998年頃に一度カンボジアに来たことがあるのですが、それと比べると、もう全然違います。
もちろん、普段生活している場所も都会というわけではないですが、なんだかんだでプノンペンにもそこそこ近いですし、しっかりした家も建っていたりします。普段の生活で特に困ることもありません。
でも、実際に田舎の方へ行ってみると、家やそこで暮らしている人たちの生活は、やっぱり都会とは全然違うなと感じます。
ジャパンハートに来る患者さんの中にも、かなり遠くから来ている人がいます。
例えば、乳がんの患者さんで、かなり腫瘍が大きくなってしまって皮膚を突き破ってから初めて受診するような人を見ると、「なんでこんなになるまで受診しなかったんだろう」と、どうしても思ってしまうことがあります。
もちろん、患者さんを責めたいわけではありません。
実際に田舎の方へ行って、そこで暮らしている人たちの生活を見てみると、「しょうがない部分もあるのかもしれないな」と感じます。
そして、まだまだこういう人たちに対して、自分たちができることはあるんじゃないかなと思うようになりました。
治療の遅れなどに関して、実際に患者さんに話を聞いてみても、最終学歴が小学校卒業だったり、中学校卒業だったりする人もいます。
そういう背景を考えると、やっぱり教育やヘルスリテラシーの影響が大きいのではと思います。日本で考える以上に、病気や健康について考える余裕がないまま生活している人が、まだまだ多いのでしょう。
地域による格差の大きさを、今回カンボジアで生活して改めて感じました。

一番難しいなと思うのは、やっぱり言葉です。
医師の場合、基本的には通訳さんがついて、一緒に患者さんを診察することが多いので、普段はほとんど日本語で診療しています。
ただ、日本人同士の会話ではないので、問診をしていても、話の辻褄が合わないように感じる事やニュアンスがわからないこともあります。雑談だったら、「まあいいか」と思えるのですが、患者さんの病気について診断しようとしているときは、やっぱりそうはいきません。
例えば、以前「1週間前から足が腫れています」という患者さんが来て、「1週間前に腫れてから、病院やクリニックには行きましたか?」と聞いたら、「2週間前にクリニックに行ったそうです。」と返ってきたんです。そうなると、患者さんが間違ったことを言っているのか、通訳をする中で何かを間違えているのかが分かりません。
そのため、問診をするのにすごく時間がかかります。日本で診療していたときの2倍以上時間がかかるし、それでも、得られる情報は、半分くらいなんじゃないかなと思います。
あとは、患者さんへの説明も難しいです。
例えば、糖尿病で「この薬で治療しましょう」となった場合、日本だったら、その薬の飲み方や副作用、どういうことに気をつければいいのかなどを、詳しく説明することが大切です。手術の場合も、「こういう内容の手術で、こういう危険性があります」ということを、かなり細かく説明しますし、治療の一部として重要だと思います。
でも海外では、こちらが伝えたいことが、なかなかそのまま伝わらない。だから、同じ薬を出して、同じ手術をするとしても、日本では言葉で補っている部分が不十分になるので、その辺は、やっぱり難しいなと思います。

医師として来るのであれば、医学系の知識でも技術でも、何でもあったほうがいいと思います。
だから、何でもできるに越したことはないですが、「特別これをやっておいたほうがいい!」というものも、あまりないと思います。
強いて言えば、エコーはよく使っています。 僕自身も消化器内科で腹部エコーは以前からよくやっていたので、その点に関してはそこまで日本にいたときと大きく変わるわけではありませんが、甲状腺や婦人科のエコーはあまり経験はありませんでした。
後は、できるだけ幅広く色んな疾患を診ることができ、訪問診療みたいにあんまりリソースがないところでも働く経験はしていた方が、より適応しやすいんじゃないかと。
後は、生活環境的な面でいうと、バックパッカー的な何かしらの経験はあった方が、早く慣れるのかなと思います。
色々ある選択肢の1つとして、一度やってみたら面白いと思います。
日本でもいろいろな病院や働き方がありますし、ジャパンハートで働くことも、その選択肢の1つみたいなもので、そんなに特別なことでもないと思います。
もちろん、ここは日本とはいろいろ違います。でも、意外とそんなに違わないこともあります。生活のレベルも医療のレベルも思ったより良くなっています。
日本のどこに行っても面白いことはあるし、どこに行っても経験になる。
カンボジアも、それと一緒だと思います。
日本のようないろいろ揃っているところで働いていて、ここに来ると「全然できない」と感じたり、文化の違いなども含めて、ストレスになることもあると思います。ボランティア精神的なことは大事だと思いますが、自己犠牲的な気持ちだけだとしんどくて続かない部分もきっとあるでしょう。
だから「カンボジアって面白そう」「海外で住んだり働いたりしてみたい」というような理由で来てもらったほうがいいのかもと思います。
長期学生インターン
岡北 萠花