活動レポート

カンボジア

2026.09.14

【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support) ― ジャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動 ― 

2026年8月16日、ジャパンハートアジア小児医療センターにて、第2回JHLS (Japan Heart Life Support) が実施されました。

JHLSとは成人を対象とした二次救命処置「ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)」と、小児の二次救命処置を学ぶ「PALS(Pediatric Advanced Life Support)」を組み合わせた1日完結型のジャパンハート独自の教育プログラムです。
患者さんの急変時を想定した実践的なシミュレーションを通して、適切な救命処置やチームでの対応力を身につけます。

これまで、ジャパンハートでは成人と小児を対象とした一次救命処置(BLS・PBLS)や成人を対象とした二次救命処置(ACLS)のプログラムを実施してきました。
ACLSについては2026年2月にプログラムが新設され、これまでに3回開催されました。
また、小児については日本人医師指導のもと、JPLS(Japan Pediatric Life Support)が2025年9月に開催されました。

そして2026年7月、ACLSにPALSの要素を取り入れた成人・小児双方の急変対応を学べる新しいプログラムとして、JHLSがスタートしました。

【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support)ージャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動ー

JHLSの流れ

本プログラムは成人および小児の救命対応を体系的に学ぶことを目的として、講義・実技・評価を組み合わせた1日完結型で実施されました。

プログラムはACLSとPALSの概要説明から始まり、成人・小児それぞれの気管挿管や除細動に関する講義と実技を行いました。
また、シミュレーションにおける役割や進め方について動画や資料を用いて確認した後、講師による成人・小児それぞれのデモンストレーションが実施されました。

【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support)ージャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動ー
【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support)ージャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動ー

その後、受講生による実践形式でのトレーニングが行われ、実際の症例を想定したシミュレーションを繰り返し実施することで、知識と技術の定着を図りました。

最後に筆記試験と実技試験を実施し、そのフィードバックと結果の共有が行われました。

当日は講師と受講生が積極的にコミュニケーションをとりながら、和やかな雰囲気の中にも、急変時の対応を身につけようと真剣に取り組む姿が見られました。

JHLS構想の背景

JHLSを新設した里村英章医師はその背景について次のように語ります。

なぜJHLSを導入したのか

民間の救急車システムが十分に整備されていないカンボジアにおいて、心肺停止患者の救命率をいかに向上させるか。
また医療スタッフが心肺停止に限らず重症患者に適切に対応できるスキルを身につけることで、カンボジアの医療にどのように貢献できるか。
こうした課題について考えたことが、本取り組みの出発点となりました。

そこで着目したのが、成人病院と小児病院の2つの医療施設を有するジャパンハートの特性です。
この強みを生かし、成人と小児、それぞれの二次救命処置を一つの教育プログラムの中で学ぶことができる仕組みとして構想されたのが、JHLSです。

日本では成人救急と小児救急の教育が細分化されており、小児救急の救命処置は小児科医を中心に行われています。
PALSを受講している成人救急医の割合は決して高くありません。
成人救急と小児救急の教育システムが分かれていることで、小児の救命処置を学ぶ医師が限られ、心肺停止時の小児の救命率、特に乳幼児の救命率が十分に上がっていないという課題が我が国にはあります。

そこで、現在のように小児科医が小児救急を担うという分け方ではなく、成人救急を担う救急科医が小児救急を学ぶことが必要という考え方が生まれました。
また、救急医は重症患者への対応を専門としているため、小児救命処置のトレーニング機会を増やすことで、より小児の急変時の救命率が向上されることが期待されます。


こうした考え方から、JHLSはカンボジアの医療者を育成するための取り組みにとどまらず、将来的には日本の救急医療にも応用できる教育システムとして発展させることが検討されています。
里村医師は成人救急と小児救急を一体的に学ぶ仕組みを日本にも逆輸入することで、地方における医師不足や医師の働き方改革といった日本の医療が抱える課題への寄与にもつなげられると考えています。

カンボジアで二次救命処置のトレーニングを行う際にも、日本の既存の教育システムをそのまま持ち込むのではなく、まだACLSが十分に普及していない今だからこそ、初期段階から成人救急と小児救急を組み合わせて学ぶ仕組みを構築することに意義があります。
より多くの医療スタッフが小児救急にも対応できるようになることで、小児の救命率向上につなげていくことが目指されています。

【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support)ージャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動ー

JHLSのこれから

第1回のJHLSでは日本人スタッフが中心となり運営や進行を行いましたが、第2回となった今回は、第1回を修了した受講生がインストラクターとして指導を担いました。
現地の医療者が新たな医療者を育てる体制を少しずつ構築することで、日本人スタッフによる介入を徐々に減らし、現地の医療者が主体となって継続できる仕組みを目指しています。

また、JHLSでは救命処置の技術だけでなく、医療安全に対する意識を高めることも重要な目的の一つです。
例えば、薬剤や処置の際のダブルチェックや、チーム内での声かけ、確認など、医療事故やミスを防ぐための基本的な考え方を実践の中で身につけていきます。
カンボジアをはじめとした途上国ではこうした医療安全の考え方がまだ十分浸透していない部分もあります。
そのため、救命処置そのものを学ぶだけでなく、「どのようにすれば安全に医療を提供できるのか」という視点を医療者一人ひとりが持つことも、医療の質を高めるうえで重要です。

今後はJHLSを通して救命処置の知識・技術と医療安全の考え方の両方を現地に根付かせ、より多くの医療者が成人・小児問わず急変時に対応できる体制を作ることが期待されています。
さらに、カンボジアでの実践を通して得られた知見や経験を日本にも持ち帰り、日本の救急医療や小児救急教育について考えるきっかけにつなげていくことも、JHLSの今後の展望です。

【カンボジア医療活動】JHLS (Japan Heart Life Support)ージャパンハート独自の二次救命処置プログラム始動ー

長期学生インターン 瀬﨑未彩