活動レポート

ラオス

2026.06.19

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦 

プロジェクトPhase2の集大成―現地医療者だけでの手術

例年より早めに雨季に入った5月、ラオス北部・ウドムサイ県病院で日本内分泌外科学会所属医師の協力のもと、プロジェクトPhase2最後となる甲状腺手術活動を実施しました。
今回の活動は単に“最後の手術活動を安全に終える”ことが目的ではありません。

大きなテーマとなったのは、「ウドムサイ県病院の医師たちだけで、どこまで手術ができるか」。

きっかけとなったのは、4月に行われた進捗モニタリング会議でした。
ラオス保健省や外務省、関係機関も参加する場で、ウドムサイ県病院の外科部長から「自分たちだけで、どこまでできるか試してみたい」という言葉が自主的に上がったのです。

これまで積み重ねてきた技術移転の中で、現地医療者側から自然に出てきた“挑戦したい”という声。
その言葉を受け、Phase2最後の手術活動で「病院スタッフのみでの手術」に挑戦することになりました。

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦 

しかし、実現は簡単ではありませんでした。

ウドムサイ県病院の外科医は人数が限られており、通常診療や緊急対応も抱える中、プロジェクトに関わる外科医3名全員が同時に揃うタイミングはごく限られています。
今回も予定していた期間の中でなかなか条件が揃わず、最終日の午後、ようやく機会が訪れました。
ウドムサイ県病院の外科医3名が執刀・第一助手・第二助手と務め、日本人医師が距離を置いて見守る中、まずは彼ら自身の判断と技術で手術を進めてもらう形となりました。

術前診断では比較的良性を疑う所見でしたが、実際に手術を開始すると、想定以上に強い癒着と反回神経への浸潤が判明。
途中から日本人医師へ執刀が交代し、結果として神経再建を伴う難しい症例となりました。

それでも、この症例には大きな意味がありました。

「安全に完遂できたか」だけではなく、難しい状況に直面した時に、自分たちで異常を認識し、相談し、判断する――。
その一連の経験を現地医療者自身が主体となって経験できたことこそ、今回の挑戦の価値だったと感じています。

現地医療者それぞれの変化―「自分たちで届ける医療」へ

さらに今回は、神経再建や副甲状腺移植といった手技についても、日本人医師の指導のもと、ウドムサイ県病院の医師たちが初めて実施。
これまで日本人医師が中心となっていた甲状腺機能亢進症の全摘術やリンパ節郭清症例でも、現地医師が執刀を担いました。

術前診察でも、内科医がエコーを行いながら病状を共有し、外科医が日本人医師とともに術式を検討。患者さんやご家族への説明も、現地医師主体で進められる流れが定着してきています。
「診る」「説明する」「手術する」「術後を支える」という一連の流れが、少しずつ“ウドムサイ県病院の医療”として根付き始めていることを実感します。

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦 

看護の現場でも変化が見られました。産休明けで新しいシステムへの参加が初めてとなる看護師へ、現地看護師同士で教え合う姿や、研修に来ていた他施設スタッフへ安全管理の方法を説明する場面も。
タイムアウトやサインアウト、ガーゼ・針カウントといった安全管理も、現地スタッフが主体的に実施できるようになってきています。

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦 

活動後、日本人医師からは「ウドムサイ県病院の外科医が自分たちで実施可能と判断した片葉切除症例については、病院スタッフのみで手術を行ってよい。」という評価も伝えられました。

今回強く感じたのは、この挑戦はウドムサイ県病院の医療者たちの強い意志により実現したということです。

「自分たちでもやってみたい」
「自分たちの病院で、続けていけるようになりたい」

彼らのそんな思いがあったからこそ、私たちも「一緒に実現したい」と考え、ここまで積み重ねてくることができました。
Phase2最後の手術活動で見えたのは、 “支援される側”だった現地医療者たちが、自ら次の一歩を踏み出そうとしている、その確かな変化でした。

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦 
【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦

プロジェクトの更なる発展を目指して

現行のプロジェクトPhase2覚書に基づく手術活動は、今回が最後となりました。
また、プロジェクト全体としても、現在の活動期間は2026年7月で一区切りを迎える予定です。

ウドムサイ県病院には現在も新規患者さんの受診が続いており、手術が必要となる患者さんの中には、より大きな腫瘍や難易度の高い症例も増えつつあります。
今回の活動を通して、現地医療者たちが主体的に挑戦し、自ら考えながら診療・手術を進めようとする姿勢は、確かな成長として感じられました。

その一方で、安全により高度な症例へ対応していくためには、術前評価、合併症対応、安全管理など、さらなる知識・技術の定着が必要であることも改めて明らかになっています。

だからこそ私たちは、ウドムサイ県病院が、より高度な技術と知識を持って地域医療を支え続けられるよう、Phase2の1年間延長を目指し、関係機関との調整を進めています。

“日本人医師が来る時だけできる医療”ではなく、“ウドムサイ県病院の医療者たち自身が、地域で続けていける医療”へ。今回の挑戦は、その未来へ向かう、大きな一歩になりました。

ウドムサイ県病院とそこで働く医療者の変化にあわせ、その時に必要な支援の形を模索しながら、私たちは取り組みを継続していきます。

ラオスオフィス 松原遼子

ご参加いただいた先生からのメッセージ 

伊藤病院 外科医長 友田智哲 先生

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦

ラオスで感じた「医療はチームの力」
今回のラオスでの活動は、私にとって甲状腺治療技術移転プロジェクト Phase 2 の開始時、中間、そして今回の最終段階と、節目ごとに参加する貴重な機会となりました。
そのたびに現地を訪れ、変化を見届けることができたことは大変幸運だったと感じています。そして今回、その変化の大きさに改めて驚かされました。

もちろん、現地スタッフ一人ひとりの技術や経験は、回を重ねるごとに着実に向上していました。しかし、それ以上に強く心に残ったのは、「チームとしての成長」でした。

内科医と外科医が自然に隣り合って座り、患者さんへ一緒に手術説明を行う姿。
日本でも挿管困難が予想されるような巨大甲状腺腫の症例に対しても、落ち着いた表情で「大丈夫です」と語る麻酔科医。
手術中には言葉にしなくても必要な器具を先回りして手渡してくれる手術室看護師。
病棟では患者さんの状態を丁寧に観察し、自ら考え主体的に行動する看護師たち。
そして今回は初めて、現地の外科医だけで手術に挑戦する場面にも立ち会うことができました。

それぞれが自分の役割を理解し、お互いを支えながら患者さんを守る。その姿を目の当たりにし、胸が熱くなる思いでした。

さらに印象的だったのは、患者さんへの説明にも多くの工夫が取り入れられていたことです。
傷口やドレーン管理について写真を用いて説明した資料や、入院から退院後までの流れや注意点を視覚的に分かりやすくまとめたパンフレットなど、患者さんの理解や安心につながる工夫が数多くありました。
どれも日本でも参考にしたいと感じる取り組みでした。

また、活動を支えるジャパンハートのスタッフの皆さんの存在も非常に大きいと感じました。
「患者さんのために」という思いに基づくひとつひとつの行動が、ラオスの医療スタッフや患者さんに大きな安心感を与え、その安心感が現地スタッフの自主性や自信につながっているように感じました。

医療は技術だけで成り立つものではありません。人と人とのつながり、互いを支え合う信頼関係、そしてチームの力および継続性があってこそ支えられているものなのだと、今回の活動を通して改めて実感しました。

今後も機会があれば再びラオスを訪れ、現地の医療スタッフの皆さんと力を合わせながら、患者さんのために何ができるかを共に考え、歩んでいきたいと思っています。 

おおいし甲状腺クリニック 院長 大石一行 先生

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦

ラオスでの手術指導は2024年1月以来、2度目となりました。3年間を通じて行われたフェーズ2最後のチームとして、伊藤病院の友田智哲先生と活動を共にしました。
2年前はただひたすら教えて見せるという状況でしたので、今回はラオスの先生方がどれ程成長したかみるのをとても楽しみにしていました。

今回は合計8人の患者さんの手術を行いましたが、ほとんどの手術をラオスの先生に執刀していただくことができました。

以前の症例と比較して、明らかに腫瘍が大きかったり、術式が葉切除でとどまらず亜全摘術、全摘術となる症例やリンパ節郭清症例もあり、術式自体も難化している印象がありました。
しかしながら、指導医のたすきリレーが功を奏し、術者の執刀技術は勿論のこと、術前超音波検査、手術記録記載や術後の回診や対応は驚くほど成長していて目を見張るものがありました。

副甲状腺の温存や自家移植の技術も明らかに上達しており、術後副甲状腺機能低下症もきたすことはありませんでした。止血についても十分注意がはらわれており、術後出血も一例も認めませんでした。

最後の一例は初めてラオスの医師3人だけで手術を行っていただきましたが、とても丁寧な手技でチームワークも抜群でした。
ただ、残念なことに術前に予測できなかった癌を疑うような状況で、剥離が難しく、神経の浸潤もあり切離せざるを得ず、途中で少しだけ我々が入ることとなりました。
神経の再建についてははじめてラオスの医師に任せましたが、躊躇なく吻合することができ、卒業試験としては上出来だったと思います。
まさに指導医陣と現地ラオス人医師が3年間かけて協力してきた成果が結実したものではないでしょうか。

この三年間の摘出してきた手術検体をみると、日本と異なり濾胞癌の割合が非常に高く、地域性があることがわかりました。
今回最後の症例もおそらく濾胞癌であり、この地域性も十分に考慮した上で術前診断を行う必要があるのではないかと痛感しました。
最後の症例は少しハードルが高くなってしまったため、症例選択をした我々も反省すべきところが多かったです。
ある程度の大きさで典型的な良性の腫瘍であればラオス人医師単独での手術は完遂できると考えています。

残すは術前診断、手術適応と術式選択の決定の問題です。これらの問題を踏まえた上で、今後JHと現地医師がこのプロジェクトの着地点をどのように決めていくかが気になるところです。

我々のように短期間しか現地で対応できない臨時応援団と比べると、現地滞在のジャパンハートスタッフはその短期間の手術対応のために何十倍もの準備をして下さっています。
そのご苦労はさぞかし大変なものかと思うと頭が下がります。
ですが、その甲斐あってゼロであったものがこれほど立派な甲状腺内科医・甲状腺外科医が育っている現実を目の当たりにし、感動しています。
おそらく今のウドムサイの甲状腺診療に関わるスタッフは、ラオスという国で間違いなく最先端の診療を行っていると思います。

この火種を絶やすことなく邁進し、自国で後輩の育成にも尽力されることを期待しています。
フェーズ2は今回で終了ですが、これから新たなステージのスタートが切れることを切に祈ります。

それにしても今回のミッション、特に手術は友田先生も私も疲れ果てました(笑)
大きな達成感と沢山の反省点を得ることができ感謝しています(ຂ້ອຍຮູ້ສຶກຂອບໃຈ)。
今後機会があればまた協力させていただければと思っています。本当にありがとうございました。 

相澤病院  濱野淳朗 先生

【ラオス】“自分たちの実力が知りたい”――甲状腺プロジェクトPhase2最後の挑戦

私は高校時代に途上国の飢餓問題に触れ医師を志し、大学時代はアジアやアフリカでのボランティア活動に参加しました。
卒後ジャパンハートを知りミャンマーでの手術ミッションに参加しました。
吉岡先生が120件を超える手術を執刀し、それを支える日本人、現地スタッフのスピードと熱意に圧倒されました。
医師1年目だった私は理想は高いものの臨床経験がなく無力感を感じました。

帰国後は何が必要だったかを考え、専門研修の枠を超えて必要な知識や技術を得るためのトレーニングを積みました。
カンボジアでの中期ボランティア、その後のコロナ渦を超え、卒後10年目を迎え久々活動に参加させていただきました。

 今回の甲状腺手術技術移転プログラムは日本人医師が現地で手術を行うのではなく、現地医師が手術を自立して行なうことが目標で、これまでに参加した活動とは全く異なりました。
安全な手術の「質」を伝えるなかで言葉の壁や安全意識の違いは大きな障壁で、手術中瞬時に生じたイベントは通訳がいても対応が間に合わないことが度々ありました。

また外科医は主治医が責任を持って自分で決断をしていく場面が多いです。
手術中はなおさら自分で判断しないといけない状況の繰り返しで、全てを話し合うことはできません。現地の先生が外科医として患者に対する主体性を失わず、かつ場面ごとに確認しながら安全に手術を行なうのは、バランスを取るのが非常に難しいと痛感しました。
指導する日本人医師は状況から先を予想し、適確かつ端的に伝える必要があり、難しい立場だと思いました。

 私自身も日頃指導を受けていますが、指導医によって指導内容は様々です。
しかし解剖理解や技術不足を指摘されるのは同じようなポイントが多いです。
今回指導されていた内容は私自身も指導されたことがある内容でした。
それをどこまで重く受け止めて、次に繋げるかは個人の努力の範疇でモチベーションにもよると思いますが、技術移転の障壁の一つのように感じました。
専攻医からするとトップランナーの先生からまとまった期間に直接指導が受けられる環境は羨ましいと感じました。

 現地の麻酔科の先生が甲状腺手術ミッションを教育の場として活用していたのは印象的でした。ガーゼカウントや物品数、出血カウントは手術室看護師が習慣化して自発的に取り組むことができればなお良いと思いましたが、重要性がまだ浸透していないようにも思いました。
それでも日本のスタンダードを丁寧につたえていくのがジャパンハートらしい活動と感じます。

病棟は東南アジアらしい患者家族総出の入院スタイルで、すべて甲状腺手術のミッションだったこともあり、全員を集めて指導するのは印象的でした。
それも現地の看護師が行なうことに意味があり、根付けばこの地域さらに国のスタンダードになっていくのだろうと思います。

 最後に、ラオスの穏やかな人柄が終始とても心地よく感じました。
知人のバックパッカーが、ラオスは何もないけれど一番魅力的と語っていたことを思い出しました。
この国にももっとジャパンハートが浸透してほしいと思いますし、自分自身もトレーニングを積んで何らか貢献できればと思っています。