活動レポート
ラオス
2026.05.22
サバイディー!(ラオス語で「こんにちは!」)。ラオスオフィスの松原です。
2月とともに短い冬を終えると、ラオスはぐんと気温が上がり始めます。厳しい暑さの気配を感じる3月、私たちは北部ウドムサイ県で甲状腺手術活動を行いました。現行のMOU(プロジェクト覚書)における手術活動も、今回を含めて残り2回。ウドムサイ県病院の自立に向けた重要な節目となる活動です。
今回は3日間で9名の手術を実施。これまでの技術移転の進展を踏まえ、比較的標準的な症例を中心に構成し、現地医師が執刀や第一助手として主体的に関わる機会を増やしました。実際の手術現場では、現地医師が判断や操作に関わる場面が着実に増えており、日々の積み重ねが形になりつつあることが感じられます。

術前には手術室内で行うモバイルエコーを用いた評価指導を継続し、ほぼすべての症例で実施しました。術中に状況が変わることもある中で、外科医自身がエコー所見を理解することは、安全な手術を行ううえで重要です。現地医師も日本人医師から積極的に学び、解剖生理や術式の理解を深める機会として活用されていました。

また、手術室における安全管理の面でも変化が見られました。手術前後の確認(タイムアウト/サインアウト)を現地看護師が主体的に実施する場面が増え、ガーゼカウントの不一致時にはチーム全体で確認を行うなど、安全意識の向上がうかがえます。正確性や手順の標準化には引き続き課題があるものの、現場の行動として定着し始めていることは大きな前進です。

さらに、病棟における看護体制についても、着実に自立に向け進展しています。プロジェクトに参加してまだ日が浅い現地看護師をシニア看護師が指導し、患者さんや家族へのオリエンテーションから術後ケアまで問題なく実施するなど、現地看護師間での指導・サポート体制が形成されつつあります。これは、今後日本人の支援がなくても継続的な人材育成が可能であるという点で、非常に重要な意味を持ちます。
普段は行っていない観察項目にも、日本人看護師のサポートを受けながら取り組む姿勢が見られるなど、チーム全体での成長が感じられました。

こうした成果の一方で、ウドムサイ県病院のみで診療を継続するうえでの課題も残っています。
術前診察における内科と外科の連携は強化されつつありますが、緊急手術や業務調整の影響により、安定化には改善が必要です。限られた人員の中で、どのように連携体制を維持・発展させていくのか、現地医療者とともに模索を続けています。

また、合併症への適切な対応も高度化が必要です。今回の手術では、反回神経損傷を1例経験しました。視野が不良な状況での止血操作の中で生じたものでしたが、現地医師も損傷を認識し、基本的な対応を理解できていた点は、これまでの指導の成果の一つです。今後は、こうしたトラブルが起きた際に、現地医師が自ら適切に対応できるレベルまで引き上げていくことが求められます。
引き続き、技術的な指導に加え、判断基準の標準化や運用体制の安定化を進め、現地主体の運営体制確立に向けた段階的な移行支援が必要であると実感しました。
3月の手術活動では、現地スタッフの積極性や主体性がこれまで以上に感じられました。通常の外来診療においても、内科医師から日本人医師へのコンサルテーション依頼が直接寄せられるようになり、外科医師からは「現地スタッフのみで手術を行い、その結果を評価してほしい」といった意見が挙がるなど、自立に向けた意識の高まりが見られ、プロジェクトの進展を実感しています。
次の5月の手術活動は、Phase 2における最後の機会となる予定です。この機会を通じて、現段階での評価と課題の整理を行うとともに、現地からの意見や今後の方向性に関する希望を丁寧に拾い上げ、現地の意向を踏まえた次段階の取り組みへとつなげていきたいと考えています。

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ウドムサイ県病院における甲状腺診療は、着実に次の段階へと進んでいます。
今後も現地医療者による主体的な診療体制の確立に向けて、技術移転と運用体制の両面から支援を継続していきます。

ラオスオフィス 松原遼子

月日が経つのは早いものです。
このプロジェクトのきっかけは2022年6月、私自身が第34回日本内分泌外科学会学術集会を茨城県つくば市で開催させていただいた際、特別講演の講師としてジャパンハート創始者の吉岡秀人先生にお話ししていただいたことです。その後吉岡先生と個人的にもいろいろお話伺う機会があり、ミャンマーやカンボジアでも数多くの甲状腺手術をなさっていること、ラオスで甲状腺技術移転プロジェクトが始まっていることなどお聞きしました。ぜひ手伝ってほしい、もし可能なら学会単位でご協力をと要請いただきました。
その後もジャパンハートの幹部の方や現地スタッフの方がおいでくださり、遠隔支援手術など試みているが難航していることなどお聞きしました。そういった経緯より2023年7月正式にジャパンハートと我々一般社団法人日本内分泌外科学会の間でパートナーシップ協定を結ぶに至りました。
当初学会でボランティア派遣医師を応募しても、応募は誰も来ず自分一人で何とかするしかないと腹をくくっておりましたが、ふたをあけるとなんと募集定員以上多くの学会員からご応募いただき、お断りする方もいるといううれしい悲鳴となりました。そこから年4回各々2名の指導医師(2年目からは見学医師も参加)がラオスを訪れてくださり、2026年5月で当初の3年フェーズの手術活動を終了に至りました。私は2023年11月このプロジェクトの一番最初の訪問に参加、そして2024年11月吉岡秀人先生が参加された際にご一緒し、今回ラオスは3回目となりました。
立場上この3年間のフェーズの大まかな総括を述べさせていただきます。
まず甲状腺疾患における診断・治療・手術適応の決定についてですが、当初の甲状腺内科医の移動など暗雲立ち込めておりましたが、現在の熱心なお二人の内科医ご参入と学会会員の先生方からエコーを中心とした内科講習の成果もあり、かなりのレベルに育ってくださった印象です。今後の課題はTSHレセプター抗体やシンチグラム不可の状況でバセドウと機能性結節の鑑別、手術適応、切除範囲の決定などが上がります。
またモバイルエコーの導入で外科の先生方も画像診断に関心示してくださるようになったため、内科外科の術前打合せなどが通常診療に組み込んでいただけること期待しております。外科3人の先生方の技術進歩は目覚ましく、反回神経の同定温存もほぼ問題なく、初級レベルの甲状腺手術は日本人の支援なく問題なく遂行されるようになったと存じます。今後は甲状腺全摘における確実な副甲状腺温存、易出血性腫瘍のコントロール、進行癌広範リンパ節郭清など中級~上級レベルの甲状腺手術も日本人医師支援なく行えること、およびラオス若手外科医の指導・後身育成を目指してほしいと思います。そのため次段階へのフェーズのため学会支援の継続を強く切望しております。
なお今回は前回訪問で見学に来ていたカンボジア若手外科医ラタナ先生の要請もあり、ラオスから直接カンボジア・ウドンにおじゃまし貴重な経験をさせていただきました。
ジャパンハートの皆様、現地のスタッフの皆様、日本内分泌外科学会の皆様すべてに今までのご支援を感謝申し上げるとともに、今後も末永くよろしくお願い申し上げます。

今回内分泌外科学会と国際NGOジャパンハートの共催プロジェクトに参加しました。学生時代にインドのマザーテレサの施設でボランティアをした経験があり、いつか成長して途上国医療に貢献できる機会があればと思っていました。
甲状腺の手術は、途上国であっても身ひとつで最低限の器械で行うことができます。一方で甲状腺の切除範囲や、副甲状腺機能温存、反回神経温存などの技術の差が結果にはっきりとでてしまうため、術後の経過を帰国後にみることができない今回のプロジェクトにおいては、患者さん達に不利益がないよう細心の注意を払って手術にのぞみました。
ラオスの外科医は60代、50代、40代の3名で、日常業務と甲状腺手術プロジェクトを並行して行っており、大変多忙でしたが、バイタリティにあふれた素晴らしいチームでした。このクールは大きな甲状腺腫の方ばかりで、原先生とラオスの医師と議論しながら、切除範囲を検討しました。
大きな問題点は、ウドムサイまで山を越えて来院しなければならない、薬が購入できないなどの理由で術後に内服が継続できない患者が多いことでした。今後ラオスの外科医だけで手術をする際に、安全に甲状腺機能、副甲状腺機能を温存することができる術式が求められました。日本のガイドラインをそのまま適応することは難しく、ラオスの医療、経済、文化を理解した上で支援を行う重要性を感じました。医療資源が不足する中、様々な工夫がみられました。結紮糸は節約のため、機械結びで一本の糸を何度も使っていました。術後はドレーンの代わりに、ゴム手袋を利用して創部に挿入していました。
ラオスでは家族の結びつきが強く、手術の際は家族総出で付き添い、患者さんのベッドサイドの床にござを敷いて寝泊りしていました。現地のスタッフは創部の観察ポイントを紙にまとめて家族に渡しており、私が病棟にいると創部の変化に気付いた家族が私を呼びに来てくれました。病室は平屋で直接外に繋がっており、大きな窓から太陽の光が差し込み明るく開放的です。患者さんの食事は、家族が外で薪で料理したものを一緒に食べます。日中は離床を促す体操を家族と一緒に行い、外で日光浴して過ごしています。このような環境から、「せん妄」という概念はラオスにはほとんどないと聞き、非常に納得しました。
ラオスの人々は非常に温厚で素朴で、我々の活動に大変感謝を示してくださいました。このように信頼を得て多くの患者さんが集まっているのは日々の現地スタッフの熱意と努力の賜物です。若い日本人スタッフ達は、文化の異なる異国の地に飛び込み、過酷な環境の中様々な苦労や葛藤を乗り越えて活動されており、その高い志と勇気に心を打たれました。人々の幸せを願った支援とそれに対する感謝の笑顔に医療の原点をみた思いがしました。
今回ジャパンハートの方々の丁寧なサポートにより、初めての渡航でしたが安心して医療活動に専念することができましたこと、心より感謝申し上げます。次の機会があればぜひまたご一緒できると嬉しいです。